今年8月6日、オーストリアの大手飲料メーカー「レッドブル」が、NTT東日本からサッカーJ3大宮アルディージャを買収すると発表した。日本の主要プロスポーツで、単独で運営権を持つ外資系オーナーが誕生するのは初めてである。買収価格は公表されていないが、一部の報道では3億円前後と報じられている。
これ以外にも、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)では2017年から24年の8年間に17クラブで18回のオーナーチェンジ(経営権交代)が発生した。特に、19年にJ1鹿島アントラーズがメルカリに買収された際には、16億円という取得価額が物議を醸した。
鹿島の16億円、大宮の3億円の取得価額が高いのか安いのか、さまざまな意見があるだろう。問題は、Jリーグを含む欧州・北米以外のプロスポーツクラブは、クラブの企業価値を算定する方法論が確立されておらず、買収額が適正か否かの判断ができないことである。
プロスポーツ球団やクラブも歴とした株式会社であり、企業の価値は必ず存在する。それが正しく評価されなければ、経営権交代の際などに合理的な取引が行われないだけでなく、資金調達も難しくなり、積極的な成長も困難になる。業界としての将来性、発展性を考えたとき、クラブの企業価値を算定する方法論が不可欠なのは明らかだ。
では、プロスポーツクラブが高値で取引されている欧州や北米においては、クラブの企業価値がどのように評価されてきたのか。
イングランドをはじめとする欧州では、もともと会員組織でサッカークラブが経営され、やがて地元の名士が自己資金を投入し、他の名士に経営をバトンタッチしながら大事にクラブを育ててきた。しかし、1992年にプレミアリーグが創設されると、外資系のオーナーの参入も許されるようになった。彼らは、いずれはクラブを売却する可能性を視野に入れていたため、利用可能なあらゆる指標を用いて自クラブの価値の算出を試みるようになった。
欧米では現在、どのようにクラブの価値評価をしているのか。米国の4大プロスポーツリーグ(アメリカンフットボール、バスケットボール、野球、アイスホッケー)には124の球団があり、欧州サッカーの5大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス)には1部リーグだけで96のクラブがある。しかし、米国4大リーグの各球団は財務を含めた経営指標データをほぼ公表していない。一方、欧州サッカーにおいてはアニュアルレポートを出しているクラブが多く、さらに複数のデータ会社が選手の市場価値を出しており、公表データからクラブの価値評価に影響を与える要素はかなり拾えることが分かった。
また、前提として、一般企業とプロスポーツクラブでは、経営に対する考え方が大きく異なる。前者はいかに利益を生み出すかが至上命題だが、後者は「黒字を出すこと」の方が珍しい。なぜなら、勝敗を争うエンターテインメント産業であり、赤字覚悟でも良い選手や監督・コーチの獲得や育成など、絶えざる投資が必要だからである。
一般的な企業の価値評価は将来利益を基に行う。あるいは類似上場企業の利益を参考にする。しかし、スポーツクラブは黒字を出さないビジネスモデルであることから、その手法が使えないことが想像された。
なお、過去には黒字にこだわる「profit maximize」か、勝利にこだわる「win maximize」のどちらを追求すべきかで激論が交わされたが、「profit maximize」はチーム成績の停滞を招き、最大の収入である放映権収入の喪失とともにクラブのブランド価値を毀損し企業価値を失っていくというのが欧米の定説である。