健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

長生きしても幸せじゃない――老後のリアルな悩みに医師が答える

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出かける元気がない

人は外に出かけて移動することで、新しい体験をしていきます。移動距離が長いほど幸福度が高いという研究もあるそうです。

しかし高齢になると、外出がおっくうになってきます。
身体的に大変だから出かけないということもあるでしょうが、それより出かける目的がないということもあります。

私の外来に通っている患者さんで、90歳を過ぎていますが、毎日炎天下であっても電動自転車ででかけている人がいます。
とくに出かける目的はないのですが、電動自転車に乗って移動することが楽しいし、生きがいのようです。

このように目的なく移動するというのはちょっと難しいかもしれませんが、意識的に移動を増やすのは簡単にできます。それなりに距離のある移動でなくとも、すぐそこまで程度のもの、たとえばコンビニに行くということだけでも、十分充実感を得ることができるでしょう。

とにかく歩く、移動する、これは認知症の予防になります。
それに加えて、移動することで新しい発見ができるものです。頭の中だけで考えているのと、実際に体験するのとではやはり大きく違います。こうした違いを、常に意識していくべきです。

高齢になってくれば、なんでもやったことがあるように感じてしまうものです。そして、行動する前に、その結果が見てしまうような気がしてしまうのです。
ですがこれは、非常に危険なことです。

まず動いてみる。これだけです。これができれば、高齢になっても、趣味がなくても、日常を楽しんでいけます。

住環境を変えない

ある高齢者の方の話です。その方は有料老人ホームに入っているのですが、食事がまずくてたまらないそうです。
通りの反対側にファミレスがあるのですが、そこに出かけて食事をとるには、外出の申請をしなければなりません。そのため、面倒なのでそこまではしたくないと言うのです。

このように、介護施設へ入所するとなると、ただ外に行くだけでも、いろいろな制約や周囲への気遣いが必要になります。

とはいえ、家族に負担をかけないで済む、生活をするうえでいろいろなサポートが受けられる、などのメリットがあります。また、新しい人間関係ができるかもしれません。

介護施設への入所が必ずしもダメというのではありません。
自分でできることは、最後まで自分でするように守ることです。それが、入所しても自由を手放さないための、最後の砦になります。

そのように自由を確保するために、老後において意識しておくべき重要なことが一つあります。
それは、自分の居場所の確保です。
つまり、いま住んでいる家を大切にするのです。
施設への入所だけでなく、子供との同居、二世帯住宅なども、結局うまくいかないことがあります。

何が起きてもいいように、可能な限り、いま住んでいる住環境を維持するように努力すべきです。
最後は一人で家に住むという自由だけあれば、老後は十分楽しめるのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界一受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。日本老年医学会特別会員。推理作家協会会員。

著書

80歳でもほどよく幸せな人はこういうふうに考えている

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米山公啓 /
80歳を超え、90歳、さらには100歳と、とても長生きする人が増えてきました。です...
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