では、正社員を採用するとなった場合に、人事担当者は何をしたらいいのでしょうか。やるべきことはたくさんあります。募集経路(どのような方法・媒体で募集するのか)、採用メッセージ(どのような表現で募集するのか)、採用選択方法(採用・不採用はどのようにして決めるのか)、処遇の決定(給料や待遇はどうするのか)など、さまざまなことを考えなくてはいけません。
ただし、その前にやらなくていけない重要なことがあります。それは「求める人材像」を明確にすること。採用の失敗を避けるためには、これが何より重要です。
経営者や人事担当者の多くが「いい人が採れない。そもそも応募者が来ない」と悩んでいます。少子高齢化や人口減少で働く人も減っています。どの業界もますます深刻な人手不足に陥っていますが、募集の仕方にも課題があると考えられます。
企業の採用ページや求人サイトを見てみてください。楽しそうに働いている社員は出ていますが、「どのような人材を求めているのか」を具体的に示していることは、あまりありません。「明るく素直で元気な人」とか「○○の経験がある人」くらいしか書いてないケースがとても多いのです。だから採用のミスマッチが起こりやすく、そもそも応募者が来なかったりするのではないでしょうか。
自社の求める人材像を明確にして伝え、その上で選考に臨み、求める人材像に近い人材を選んでいくという過程を経ることで、採用の成功率は上げることができます。
これは私たちの会社で作成した「求める人材像/採用基準例」から一部抜粋したものです。企業によって求める人材は異なりますが、このような一覧表を作成し、さまざまな観点から「自社が求める人材像」を改めて考えてみてください。
これらの項目すべてを採用ページに公開するわけではありませんが、公開できる言葉に言い換えて、「こういう人が欲しいです」と示すことは大切です。自社が大事にしているポイントを具体的に伝えることで、応募者の心に響きやすくなります。
また、人事担当者がすべての面接をするわけではありません、現場のマネージャーが面接するケースもあれば、最終的に経営陣が判断する場合もあるでしょう。上記のような「求める人材像/採用基準例」を作成し、社内で共有することをおすすめします。いざ採用となったときに、いろいろなことがクリアになるはずです。
そしてもう1つ、人事担当者として持っておきたいのは「人に関する長期的な視点」です。経営者はビジネスに関しては3年から5年くらいの中長期的な視点を持っているものですが、「人」に関してはそこまで意識が及ばないことも少なくありません。
正社員として採用した場合、その人は5年後、10年後はもちろん、65歳まで会社にいるかもしれません。仮に「採ってみたけど、ダメだった」となっても、いちど採用した人は、簡単に解雇するわけにはいかないのです。
また、時代はどんどん変化していきます。ある商品のニーズがなくなったら、その人の部署そのものがなくなることもあり得ます。そうなった場合に、その人をどうするのか。他部署に異動させても、戦力になるとは限りません。
25歳の人を中途採用した場合、5年後には30歳、10年後には35歳になっています。正社員として採用する場合は、65歳まで想定するのは無理だとしても、少なくとも5年後、10年後を見据えた長期的な視点を持ち、その人が他社でも通用するようなスキルや経験を身につけられるように育成・教育の環境を整えておくことが重要です。
今の時代は、かつての日本企業のように社員の人生を丸抱えすることはできなくなりました。だからこそ、どんな企業、どんな業界でも通用する人材になる必要があり、そういう人材を育てることが企業や経営者、そして人事担当者の責任であると私は考えています。長期的な視点を持たず、正社員として採用して、どこにも行けない人材を育ててしまい、30歳や35歳で「はいさよなら」となったら悲劇です。
正社員として採用する場合は、そこまで考え、社員の人生に対して責任を持つ覚悟が必要です。「3年いてくれればいい」だったら、正社員でなく契約社員でいいのです。3年間の契約にして年収を高くすればいいのではないでしょうか。
自社の事業に関しては、5年先、10年先まで予測することは難しいかもしれません。しかし、人に関しては、社内の人員構成や年齢構成、退職率などから「5年後、10年後はこうなる」と予想することができます。人事担当者は、経営者とは違う視点が常に必要です。採用は、長期的な目線や責任と覚悟を持って慎重に臨んでください。
次回につづく