人事は「人への関心」を持っていたほうがいい。よく言われることですが、これは実際にあったほうがいいです。人事は社内の多くの人々と接する仕事です。人への関心を持ち続けることができないと、人事業務を続けていくのは難しいでしょう。
また、新しい制度などを始めるときは、ほぼ間違いなく「横やり」が入ります。社内のさまざまな人から「よくわからん」「難しすぎる」「面倒くさい」といった批判を受けることになります。これは至極当然な反応でしょう。すべての社員や管理職、ひいては経営陣に理解と共感をしてもらうことは、制度導入の当初は極めて難しいものです。
そうしたときに大事なのは、「なんであの人は、こういうことを言っているのだろう」と考えること。批判は、社員の本音です。人事は相手軸で考え、理解や共感、把握をしたうえで、施策を進めたり、制度設計をしていかなくてはなりません。
ただし、人への関心は持ちながらも、それに振り回されないことも重要です。公正な視点で考え、そのうえで「こうしよう!」と決めたことに関しては、たとえ批判があっても前に進めていかなくてはいけません。特に人事制度に関しては、さまざまな意見を承りながらも、一周回するまでは当初決めた考え方で運用すべきです。
なぜなら、人事制度は制度設計で失敗することはほぼありません。失敗するとしたら、運用時にその軸がブレてしまったときです。だからこそ人事は、自分が信じる確固たる意志を持ち、周囲の批判があっても動じない覚悟が必要になるのです。
自分を信頼していることも、人事担当者の重要な資質の1つです。自分を客観的に捉えて「俺ってダメなやつ」と思うことはあっても、ずっと「俺ってダメなやつ」と思っている人は、他人のことも信じられません。自分を信じていない人は、他人のことも信じられないので、人事担当者には向いていないでしょう。
私は「人事は愛である」と考えています。「人は信じるに値するものであり、すべて感情をもっていて、そして愛されたがっている」と思って仕事に向かうべきではないかと。ですから、自分も含めて「人」を信じられることが重要だと思うのです。
人事は、裏切られることの多い職務です。苦労して採用した人が、すぐに辞めてしまうことも珍しくありません。人に害を与えたり、不正をする人もいます。それでも「人は信じられるものだ」と思わなければやっていけません。人を信じ続けることができる。そんな愛を持った人が人事には向いています。
愛は一方で過酷です。相手のことを思えばこその「お別れ」もあります。採用した人に対しても「もうこの会社での役割は終わったな」と判断したときは、別の道を勧めなくてはならないこともあります。そういう決断をしたときに、根底に人事担当者の愛を感じなければ、相手もそれを決して受け入れないでしょう。
また、守るべきものを守るのも愛です。不正やハラスメントなどの加害者に対しては、厳しく対応しなければなりません。情感に引きずられてはならない。決めを打たなければ、みんなが惑い、迷います。会社は更生の場ではありません。しかるべき機関に委ねることも必要になるでしょう。
人事は裏切られることの多い職務ですが、それでも愛を持っていかなければならない。逆に、人を信じられなくなったら、愛を感じられなくなったら、「人事」をしてはならない。そのくらい大事なことだと私は考えています。
人事担当者に必要な能力の数々、自己客観視、人の関心、人への愛…これらすべてを自分は完全にできている、とは言えません。私もできていないことがたくさんあります。
それでも、これらを目指していますし、目指さなくてはいけないと考えています。人事担当者を任命するときは、また、ご自身で人事をやってみようと思っている人は、今回お伝えした人事担当者に必要な能力、そして資質について考えてみてください。
つづく