社員が定着しない。優秀な人材が辞めていく。採用がうまくいかない。評価制度が曖昧。このような問題を解決するためには、中小企業であっても人事機能は必要です。では、人事担当者はどのような人材を選んだらいいのでしょうか。
人事担当者に適しているのは、基本的には「頭のいい人」です。といっても偏差値が高いということではなく、物事を多面的かつ構造的見ることができる人。ある問題に対して、1つの面だけでなく、多方面から、そしてその原因などを構造的に考えることができる。
「残業が多いから残業を減らします」「退職率が高いから退職率を下げます」といった「AだからB」という考え方の人は、人事には向いていません。
残業が多いとは、どれくらいなのか。36協定を大幅に超えているのか。そんな疑問をはじめとして、人事は多方面から考える必要があるのです。
部門や部署に偏りがあるなら、部長や課長のマネジメントに問題があるのかもしれません。それは全社レベルではなく、個別に対処すべき事案となります。
残業している理由に着目することも大事です。社員が意欲的に仕事に取り組んだ結果、残業が増えているのなら、やりたい仕事をやめさせることによって、モチベーションが低下するかもしれません。その結果、会社の業績が下げるおそれがあります。残業の原因や影響などを構造的に考える必要があります。
また、残業を減らせば、社員の収入も減ります。それが原因で離職するかもしれません。新たな人材を採用するとしたら、採用コストがかかります。優秀な人材を採用できるとは限りませんし、社員の育成・教育には人的コストがかかります。
残業を減らすことで、業績が下がり、離職者が増え、採用や育成のコストがかかる。これは企業にとってメリットがあると言えるでしょうか。あくまで仮の話ではありますが、人事担当者はこのような可能性も視野に入れて考える必要があります。残業は必ずしも「悪」とは限らないのです。
「退職率が高いから退職率を下げます」も同様です。退職率が高いとなぜ言えるのか。誰が辞めているのか、残業を減らせば退職率は下がるのか。そもそも適正な退職率はどのくらいか…。こちらも多方面から考える必要があります。
退職率が高い場合、人間関係が悪い、業務量が多い、労働時間が長い、給料が安い、教育や育成の仕組みが整っていない、評価が不満、将来が見えないなど、さまざまな原因が考えられます。特に注目したいのは「誰が辞めているのか」です。
あなたの会社には、できれば辞めてほしい人はいませんか。私はさまざまな企業からご相談を受ける立場にありますが、その多くを占めるのが、社内の「困った人」をどうしよう、という問題です。
仕事をしない、成果が上がらない、協働できない、パワハラ・セクハラをしている、不正をしている、仕事中寝ている、終業30分前からトイレに入って出てこない、遅刻や早退が多い。「困った人」の例は、枚挙にいとまがありません。
このような「困った人」、つまり、できれば辞めてほしい人が辞めているのだったら、企業にとっては、むしろ好都合なのではないでしょうか。
逆に優秀な人材、つまり辞めてほしくない人がどんどん辞めているのだったら、それは緊急事態です。こういう場合のひとつの解決策は、人事評価を適切に行うことです。
中小企業は、人事評価制度がないことも少なくありません。退職率を下げるためには、給与を上げる、労働時間を減らすといった、その場しのぎの施策を打つのではなく、人事制度を根本から見直す必要があるでしょう。キャリアステップを明確に示す、それに基づき評価し、給与に反映する、といった人事制度です。
人事はさまざまな要素が密接に絡んでいるため、「残業が多いから残業を減らします」「退職率が高いから退職率を下げます」といった「AだからB」という思考は非常に危険です。だからこそ人事担当者は、物事を多面的かつ構造的に考えられる人が適しているのです。