社員成長の決め手は、人事が9割

人事が強い会社は、社員に「企業理念」が浸透している?

その理念を実現するために、社員にどういう行動を求めるのか?

もっとも理念はすでにある企業がほとんどでしょう。もし理念がないのであれば、人事部門を担う担当者と社長が話し合う必要がありますが、すでにある場合は、それを改めて見直すか、社員に浸透させていくことが次のステップとなります。

理念がない場合は「そもそも社会に何を提供しているんだっけ」「どんな価値観で働いているんだっけ」といった、会社が目指すものを改めて振り返り、社長の思いや考えを反映させてミッション・ビジョン・バリューに落とし込んで提示しましょう。

また、理念はあっても、意外とないのが「行動指針」です。行動指針とは「理念を実現するために、社員にどういう行動を求めるのか」を具体的に示すもの。たとえば、Googleは、以下の「ミッション」と「10の事実」を理念として掲げています。

<Googleのミッション>
Googleの使命は、世界中の情報を整理し、
世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです。

<10の事実>
1.ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる
2.1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番
3.遅いより速いほうがいい
4.ウェブ上の民主主義は機能します
5.情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない
6.悪事を働かなくてもお金は稼げる
7.世の中にはまだまだ情報があふれている
8.情報のニーズはすべての国境を越える
9.スーツがなくても真剣に仕事ができる
10.「すばらしい」では足りない

(参照元 Googleホームページ https://about.google/philosophy/?hl=ja

Googleのミッションは、どんな企業なのか、何を提供しているのか、何を目指しているのか、「その会社らしさ」がシンプルに伝わります。そして「10の事実」として、社員に求める行動や考え方、すなわち「行動指針」も明確に示されています。

あなたの会社らしさとは何か。社員にどんな行動や考え方を求めているのか。
それらを「理念」や「行動指針」として表現してみてください。

会社と社員の価値観をすり合わせ、みんなで考えてもいい

行動指針については、人事担当者と社長だけでなく、「会社の価値観」と「社員の価値観」をすり合わせて、みんなで考えるのも1つの方法です。

実際、「行動指針を考える研修」を実施している企業は多くあります。上記の図はその一例です。3つのセッションに分け、「個人の価値観」と「会社の価値観」をそれぞれ共有し、みんなで「行動指針案」を抽出するプログラムになっています。

多くの場合、社員を集めて、「仕事でこれだけは譲れない、または絶対に曲げたくない考え方はありますか?」「なぜそれは大切なのですか?」「具体的な事例を思い起こしてみてください」といった投げかけをして、まずは個々の価値観を確認します。

これ、いろいろな会社で実施しているのですが、想定していた以上に社員個々から様々な「仕事へのこだわり」や「信念」が出てきます。みんなそれぞれ仕事に対する「想い」があることがわかります。とても興味深いセッションになります。

次に「みなさんで共通していることや、共通していないが特筆すべき価値観などをディスカッションして整理してください」と言って、それぞれの価値観を共有します。その上で会社の価値観を改めて示して、行動指針案を話し合っていくのです。

理念は、会社が大きくなるにつれて、社員に浸透しなくなっていくものです。第1世代、第2世代、第3世代と、世代が新しくなるごとに、社長の思いや考えに対する共感は得られにくくなっていきます。会社の成長、社員の増加、拠点の拡散、世代交代によって、社長と社員のコミュニケーションの量や質が減少し、会社の思いや大切にしたいことが社内全体に行き渡らなくなっていくのです。

行動指針をみんなで考えることは、そうした事態を防ぐ良い機会になります。上記のような研修プログラムを実施することで、自社の理念について社員も改めて考え、共感を深め、自分自身の目標や価値観も見つめ直すことができるでしょう。

社内のコミュニケーショの質と量が保たれ、社長の思いや考えが社員に行き渡っている状態だったら、そこまでする必要はないかもしれません。しかし、社員が増えて理念が浸透しなくなってくると、その会社は危ないです。御社らしさとは何か。理念について改めて問い直して、行動指針を策定してみてはいかがでしょうか。

次回につづく

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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