会社が成長するためにも、良い人材を採用するためにも、そして人事部門を設立する際にも、最も重要なのは「理念」です。前回そのようにお伝えしましたが、社員が共感できる「理念」とは、どんなものなのでしょうか。
理念は、企業によって表現方法は異なりますが、一般的に上記のように定義されています。企業の存在理由(使命・目的)=ミッション、企業の目指す姿(将来像)=ビジョン、企業の価値観(信念)=バリュー、また、これらに基づく社員の行動指針、これらの総称が「理念」と呼ばれ、企業理念や経営理念として示されています。
要は「その会社らしさ」を表すものですね。どのような使命を持っているのか、何を目指しているのか、どんな価値観で働いているのか。その会社の「個性」を表すものが「理念」と考えると良いでしょう。
ですから「お客様第一主義」「お客様の笑顔のために」といった、よくあるフレーズだけでは「他社も同じこと言ってるじゃん」となってしまうため、社員の共感は得られにくくなります。他の会社と何が違うのか、どんな個性があるのか、「その会社らしさ」を具体的に表現することが望ましいです。
また、社員だけではなく、求職者に対しても「自分と同じ価値観だな。この会社は合うな」あるいは「合わないな」、「同じ目標に向かって頑張れそうだな」「無理だな」と判断できる理念を示すことが、採用における大事なポイントになってきます。
就職と結婚はよく似ています。結婚はお互いの個性が合うかどうかが大切ですよね。相手の収入だけ見て結婚しても、その後の長い生活があります。採用も同じです。「その会社らしさ」をわかりやすく示して、共感してくれる人を探す。それもまた、理念の重要な役割の1つです。
たとえば、私の前々職であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、以下の理念と行動指針を掲げていました。
<CCCの理念>
ミッション:カルチュア・インフラをつくっていくカンパニー
ビジョン:世界一の企画会社
バリュー:自由・約束・プロ・個客中心・信頼・感謝・感性・夢
<行動指針>
1.顧客を一番知っている人間になる。
2.顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ
3.顧客に「ありがとう」と言われる仕事をする
4.自分の志で人生をつくり、世界一流になれる仕事の領域をもつ
5.約束は誇りにかけて守る。やり切る。できない約束は悪をつくる
6.その場で決断をする。問題をのばすことが問題となる
7.現場・現物・現実の情報を組み合わせる。会社にいるな、世の中にいろ
8.好感度人間たれ。好かれなければ情報は集まらない
9.企画、企画、企画。勇気、勇気、勇気。失敗を恐れない。その先に成長がある
10.出を制して、入りを図る
以上を、今日、行動せよ。
(参照元 CCCホームページ:https://www.ccc.co.jp/recruit/value/)
CCCは、CDやDVDなどのレンタルショップ「TSUTAYA」を中心としたエンターテインメント事業で成長し、現在は「Tポイント」などを中心としたデータベース・マーケティング事業で広く知られている企業です。
同社における「企画」とは、ライフスタイルに革命を起こすような仕組み、つまり生活を新しくするインフラやプラットフォームのこと。「こんな生活はどうですか」とライフスタイルの提案をし、誰でも利用できるインフラにする事業を行っています。
「カルチュア・インフラをつくっていくカンパニー」というミッションや「世界一の企画会社」というビジョンは、他社とは異なる「その会社らしさ」をわかりやすく表しているのではないでしょうか。
10の行動指針は、すべてが万人に共感されるものではないかもしれません。しかし、それでいいのです。求める行動や考え方を具体的に示すことによって、社員の共感はもちろん、求職者にとっても判断基準が明確になっています。
理念は、万人に共感される必要はありません。100人いても100人と結婚することがないように、理念は100人のうちの2〜3人に共感してもらえばいいのです。
離婚の原因として「価値観の相違」や「性格の不一致」が多いように、企業と社員も価値観や考え方が一致していることが非常に重要です。そうでなければ、お互い辛くなるだけ。「能力があるから」「経験者だから」「福利厚生が充実しているから」といった理由だけで採用しても、結局は長く続きません。
万人に受けなくてもいい。同じ価値観を持った人に対して「君だよ君」と、しっかり届く。それこそが社員が共感できる、目指すべき理念といえるでしょう。