外部の力を借りるときに注意していただきたいのは、やはりその人選です。この連載の第2回でもお伝えしましたが、「人事」と「人材」は違います。人材系の会社の出身であっても、人事ができるとは限りません。人事経験者であることは必須です。
創業時から手伝ってもらっている社労士さんに「ベタな人事」をお願いする企業もありますが、社労士さんは「ベタベタな人事」のプロであっても「ベタな人事」の専門家ではありません。労働法規や就業規則、労務リスクの管理などの相談はできても、採用、任命、人事制度の構築や運用は、人事経験者でなければ難しいでしょう。
また、1000万円の年収を払えるとしても、人事部長の経験者を採用して人選を誤ると、失敗のリスクが高まります。外から採った人材は、「とにかく変えよう」とするものです。なぜなら何かを変えなければ、その人の存在意義がないからです。それは当然なのですが、人事施策の成否は、会社の業績に多大な影響をおよぼします。
たとえば、各種研修や社内イベントといった「おもしろ人事」だけなら失敗してもまだ回復できますが、等級制度・評価制度・給与制度など、会社の根幹となる仕組みづくりに失敗すると致命的です。結果的に多数の社員が辞めたり、人間関係が悪化したり、採用費が増大したりと、取り返しのつかないことになりかねません。
まずは業務委託でも顧問でも構いません。「ベタな人事」をひと通り経験している人をアドバイザーにして、週1〜2回でも来てもらいながら、基幹的人事機能を確立していく。ゼロポイントまである程度までつくっておけば、あとは社内のイケてる人材を人事部長にして人事部門がうまく回る流れをつくっていけるようになります。
外部の力を借りて基幹的人事機能を整えることができたら、社内に詳しい人材を人事部門に置いて、人事マネージャーとして育てていけばいいのです。
会社をより良く成長させるためには、できるだけ幅広い視野を持ち、その施策の次の次を考えていける人材が必要です。最もふさわしいのは、自社の理念を深く理解し、社員個々人のことをよく知っている社内の人材です。
自社の人事マネージャーを育てる方法もいくつかあります。外部の人事経験者の力を借りて、そのノウハウを移植してもらったり、鍛えてもらうのも1つの方法です。人事経験者と一緒に仕事をしていけば、スキルや知識は自然と吸収できるでしょう。
また、人事経験者が教えている講座やスクールなどに通わせる方法もあります。たとえば、私たちの会社が運営している人事の学校は、企業向けの人事担当者の学習プログラムです。人事の全体像を学んでもらったり、他社の人事と交流することで、2009年の開講以来、延べ5000人以上の人事担当者を育成してきました。
人事という仕事は、幅広い領域を扱うため、すべてを覚えるには時間がかかります。私自身も「ベタな人事」ができるようになったのは、人事全般に詳しい上司に厳しく教えてもらったからですが、それでも何年も時間がかかりました。座学であっても人事全般について学ぶことは、人事担当者のスキルアップの速度を上げてくれます。
今、多くの企業が人事機能の重要性に気づき、人事制度の確立や見直しに取り組み始めています。そして適切な制度を整えた会社の多くが、社員の能力を引き上げることに成功し、業績を伸ばしています。
社員が100人未満の企業も、来たるべき日に備えて、外部の力を借りたり、人事担当者を育成しながら、人事部門を立ち上げる準備を始めましょう。次回からは、より具体的な「人事」への取り組み方針・方法についてお伝えしていこうと思います。
次回につづく