若手を抜擢することによって「自分も頑張れば上に行ける」という希望を示して、他の社員のモチベーションを上げようと考える経営者もいます。発想としてはよくわかる話ですよね。けれど、これも裏目に出てしまうケースが少なくありません。
経営者による人事施策の失敗例③
「若手を抜擢すれば、他の若いメンバーもやる気になるだろう」
そう考えたC社長は、
優秀な若手のD君を役員に登用。
ところが、社内では「なぜあいつが?」と不満が噴出。
他の社員のモチベーションも低下。
D君への風当たりも強くなり、2年後には退職する結果に。
ワンマン社長が仕切っている中小企業では、社長の一存で人事を決めることが多いです。そのため、このような事態が起こりやすくなります。抜擢した若手が本当に優秀だったとしても、「他にも頑張っているやつはいるだろう」「社長のお気に入りだから出世できたんだ」と、多くの社員が不満を持つ結果になりがちです。
なぜ、これらの人事施策は失敗してしまうのでしょう。理由は2つ考えられます。
1つは、社員の数です。会社が小さい時期は、社長の想いが伝わりやすく、社員もそれに共感してくれたりします。しかし、50人、100と増えていくと、社長がすべての社員を把握することは難しくなり、社員も社長の気持ちがわからなくなります。直に話せる機会が減るため、社長と社員の間に溝が生まれ、誤解を生みやすくなってしまうのです。
そして、もう1つは、人事の知識や経験です。たとえば、社員を公正に評価したり、モチベーションを維持・向上させるために生まれたのが、等級制度・評価制度・給与制度といった人事制度です。これらの制度を自社に合うように構築して、適切に運用していくためには、一定以上の人事の知識や経験が必要となります。
経営者はビジネスのプロであっても、人事の専門家ではないですよね。だから社員のモチベーションが下がったり、離職が増えてしまったりするのです。
人事という部署は、どんな会社でも絶対に必要というわけではありません。従業員100人未満の会社でしたら、人事部がなくても、社長が人事を兼務していても、それほど大きな問題は起こりません。それでうまく回っている企業も多くあります。
しかし、従業員数が100人を超えたら、やはり人事部は必要です。人事は、会社の成長に合わせて必要性が増していきます。従業員が300人を超えたら、社長が人事を兼務するのは、ほぼ不可能と考えたほうがいいでしょう。
上記の図は、企業成長と人事機能の変遷をまとめたものです。青い部分は、経営者以外の専任の人材がやるべき人事の職務となります。この図を見ていただければわかるように、企業の成長とともに、青い部分はどんどん大きくなっていきます。
人事には、人事戦略、人事企画、運用・管理、オペレーションと4段階の職務があります。人事戦略とは「将来的に人をどうするか」、人事企画とは「そのために何をするか」を考えること。それを実際に行うのが、運用・管理、オペレーションです。
会社を立ち上げたばかりの「創業期」は、人事のすべてを社長が自ら行うのが一般的ですが、従業員30人を超えた「成長期」になると、次第に手が回らなくなってきます。そのため運用・管理やオペレーションの業務は、総務や経理の社員に任せたり、社労士さんなどの外部パートナーの力を借りることが多くなります。
会社が大きくなるにつれて社長の現場への対応度合いはどんどん減っていって、人事戦略や人事管理などのプランニングだけに専念するようになっていくのです。
やがて従業員が100人を超える「成長期」の後半になっても、社長が人事を兼務していると、さまざまな弊害が生まれるようになります。人事の施策や制度を作っては失敗、また失敗の繰り返しになり、離職者が増加。退職者問題や労務問題、残業問題、ハラスメント問題など、多くの課題が噴出し、会社の危機を迎えます。
あなたの会社は、今どのような状態でしょうか? 従業員が100人を超えても、社長が人事のあらゆる職務を兼務しているとしたら、要注意です。300人以上になっても人事戦略や人事企画を自ら考えているとしたら、本当に危険です。
従業員が100人を超えたら、人事部を組織し、人事部長、または採用担当者などを任命して、人事制度を導入することが必要です。さらに300人を超えたら、人事部内において企画・採用・教育などの機能を細分化することも必要になります。また、そのためには、人事経験者の助言を仰ぐことも重要になってきます。
では、具体的には何をしたらいいのでしょうか。その方法については、次回詳しくお伝えします。(つづく)