あなたの会社に人事部はありますか? 人事という部署がなく、経営者がほぼ1人で人事に関することをやっているとしたら要注意です。
社員100人未満の中小企業では、人事部門がないことが多く、経営者が自ら人事を兼務し、人事戦略を立てたり、人事施策を考えたりしています。
会社が小さいうちは、それでもあまり問題はないのですが、従業員が増え、会社が大きくなってくると、さまざまな弊害が出てきます。従業員数が300人を超えても社長が自ら人事をやっている会社もありますが、これは非常に危険な状態です。
今回は、中小企業によくある3つの失敗事例を通じて、「経営者が人事を兼務する危うさ」について、お伝えしたいと思います。
経営者による人事施策の失敗例 ①
A社長は、社員想い。
有給も取らずに働いている社員に感謝の意を込めて
5,000円の「皆勤手当」をつけることに。
ところが、社員からは「これって有給を取るなってこと!?」
と不信感を持たれ、逆にモチベーションを下げることに。
単純に手当を廃止するわけにもいかず、
全員の給与を5,000円引き上げざるを得なかった。
皆勤手当や家族手当、住宅手当など、さまざまな手当をつけて、モチベーションを高めようとしたり、社員の生活を支援している企業は多くあります。一般的にも、たくさんの手当を支給する企業は「いい会社」というイメージがありますよね。
ですが、手当は必ずしも良い結果を生むとは限りません。上記の失敗例のように、逆に会社に対する不信感を与えてしまうことも多いのです。
有給休暇を取ると、皆勤手当は出ません。そのため、ある会社では皆勤手当の制度を始めたら「体調が悪くても休んじゃいけないなんて、社員のことを全然大事にしてない」と非難轟々。家族手当や住宅手当にしても同様です。
家族手当とは、配偶者がいたら1万円、子ども1人につき5000円などを支給して、結婚した社員を支援する制度ですが、感謝してくれる社員ばかりではありません。
「たった1万5000円で家族全員を養えると思っているの?」
そんな不満に感じる人も多く、「家族がいたら大変だろう」と思って始めたはずの制度が、むしろ不満を生む温床になっていたりするのです。
また、賃貸住宅に住んでいる社員に「ひとり暮らしは大変だから」と住宅手当をつけた会社では、「それって持ち家を購入するなってことですか」と経営者の想いが曲解されてしまい、手当をもらえない社員から不満が噴出しました。
社員のことを想って始めた人事施策が誤解され、会社に対する不信感を煽る残念な結果になってしまう…。実はこのようなケースが無数にあるのです。
社員のモチベーションを上げるものといえば、やはり「お金」。そう考える経営者も多くいます。「頑張った社員には特別にお金を払おう・そうすれば、もっと頑張ってくれるだろう」と信じて、決算賞与を支給したりします。ですが…
経営者による人事施策の失敗例②
B社長も、社員想い。
会社の業績が伸びているので、「決算賞与」を支給することにした。
1年目は、社員が感激し、感謝のメールが来たり、
オフィスですれ違う際にも、たくさんのお礼を言ってもらった。
だが、2年目になるとほとんどその声は聞かれなくなった。
3年目になると、その金額に不満が出るようになった。
「決算賞与」はやめてしまおうかと考えている。
決算賞与とは、決算期に利益が出たら社員に還元する制度です。これ自体は決して悪い施策ではないのですが、お金でモチベーションを買えるのは、実は最初だけ。その効果は持続せず、裏目に出てしまうことも少なくありません。
新規受注をしたら3万円、目標達成したら5万円を払うといった「インセンティブ制度」も同様です。最初は5万円をもらって「すごい」と喜んでいた社員も、だんだんそれが当たり前になり、やがては「なんだ、また5万円か…」といった反応に変わり、逆にモチベーションが下がってしまったりします。だからといって、インセンティブの金額をどんどん上げたら、経営を圧迫することになりかねません。
決算賞与やインセンティブ制度は、社員に感謝されることが目的ではありませんが、「社員のモチベーションを上げる」という本来の目的を果たしていないとしたら、その施策は失敗といえるのではないでしょうか。