社員成長の決め手は、人事が9割

中小企業の経営者が「人事」を兼務することが、いかに危ういか

社員のことを想って始めた人事施策が会社への不信感につながる

あなたの会社に人事部はありますか? 人事という部署がなく、経営者がほぼ1人で人事に関することをやっているとしたら要注意です。

社員100人未満の中小企業では、人事部門がないことが多く、経営者が自ら人事を兼務し、人事戦略を立てたり、人事施策を考えたりしています。

会社が小さいうちは、それでもあまり問題はないのですが、従業員が増え、会社が大きくなってくると、さまざまな弊害が出てきます。従業員数が300人を超えても社長が自ら人事をやっている会社もありますが、これは非常に危険な状態です。

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今回は、中小企業によくある3つの失敗事例を通じて、「経営者が人事を兼務する危うさ」について、お伝えしたいと思います。

経営者による人事施策の失敗例 ①

A社長は、社員想い。
有給も取らずに働いている社員に感謝の意を込めて
5,000円の「皆勤手当」をつけることに。

ところが、社員からは「これって有給を取るなってこと!?」
と不信感を持たれ、逆にモチベーションを下げることに。

単純に手当を廃止するわけにもいかず、
全員の給与を5,000円引き上げざるを得なかった。

皆勤手当や家族手当、住宅手当など、さまざまな手当をつけて、モチベーションを高めようとしたり、社員の生活を支援している企業は多くあります。一般的にも、たくさんの手当を支給する企業は「いい会社」というイメージがありますよね。

ですが、手当は必ずしも良い結果を生むとは限りません。上記の失敗例のように、逆に会社に対する不信感を与えてしまうことも多いのです。

有給休暇を取ると、皆勤手当は出ません。そのため、ある会社では皆勤手当の制度を始めたら「体調が悪くても休んじゃいけないなんて、社員のことを全然大事にしてない」と非難轟々。家族手当や住宅手当にしても同様です。

家族手当とは、配偶者がいたら1万円、子ども1人につき5000円などを支給して、結婚した社員を支援する制度ですが、感謝してくれる社員ばかりではありません。

「たった1万5000円で家族全員を養えると思っているの?」

そんな不満に感じる人も多く、「家族がいたら大変だろう」と思って始めたはずの制度が、むしろ不満を生む温床になっていたりするのです。

また、賃貸住宅に住んでいる社員に「ひとり暮らしは大変だから」と住宅手当をつけた会社では、「それって持ち家を購入するなってことですか」と経営者の想いが曲解されてしまい、手当をもらえない社員から不満が噴出しました。

社員のことを想って始めた人事施策が誤解され、会社に対する不信感を煽る残念な結果になってしまう…。実はこのようなケースが無数にあるのです。

社員のモチベーションは、お金では買えない

社員のモチベーションを上げるものといえば、やはり「お金」。そう考える経営者も多くいます。「頑張った社員には特別にお金を払おう・そうすれば、もっと頑張ってくれるだろう」と信じて、決算賞与を支給したりします。ですが…

経営者による人事施策の失敗例②

B社長も、社員想い。
会社の業績が伸びているので、「決算賞与」を支給することにした。

1年目は、社員が感激し、感謝のメールが来たり、
オフィスですれ違う際にも、たくさんのお礼を言ってもらった。

だが、2年目になるとほとんどその声は聞かれなくなった。

3年目になると、その金額に不満が出るようになった。
「決算賞与」はやめてしまおうかと考えている。

決算賞与とは、決算期に利益が出たら社員に還元する制度です。これ自体は決して悪い施策ではないのですが、お金でモチベーションを買えるのは、実は最初だけ。その効果は持続せず、裏目に出てしまうことも少なくありません。

新規受注をしたら3万円、目標達成したら5万円を払うといった「インセンティブ制度」も同様です。最初は5万円をもらって「すごい」と喜んでいた社員も、だんだんそれが当たり前になり、やがては「なんだ、また5万円か…」といった反応に変わり、逆にモチベーションが下がってしまったりします。だからといって、インセンティブの金額をどんどん上げたら、経営を圧迫することになりかねません。

決算賞与やインセンティブ制度は、社員に感謝されることが目的ではありませんが、「社員のモチベーションを上げる」という本来の目的を果たしていないとしたら、その施策は失敗といえるのではないでしょうか。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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