「人」に関する問題は、目には見えにくいが、会社をどんどん蝕んでいく。
やがて慢性的な成人病のようになり、抜本的な治療が必要になってくる……。
この連載の第1回 で、そのようにお伝えしました。
「人」に関する問題とは、社員が定着しない、成長しない、採用がうまくいかない、評価制度が機能せず優秀な社員から不満が出る、パワハラ・セクハラなどの各種ハラスメント、ストレスなどの心の病気、うつなどのメンタルヘルス、不正などを指します。
これらの課題を解決するのが、「人事」という職種です。社員定着や人材成長に関しては、その9割を人事が担うといっても過言ではありません。「人事」の機能がない会社は、社員が定着せず、成長しないリスクがあるのです。
ところが「人事」は非常に幅広い領域のため、大企業の人事部門の担当者でさえ、その全体像を把握できていないことが少なくありません。
また、採用・厚生・労務・教育など、分野ごとに部署が分かれているケースもあるため、「採用のことしかわかりません」「給与のことしかわかりません」といった人事担当者も多くいます。人事部門がない企業の方ならなおさらでしょう。
中小企業の経営者の方々から「人事部門が必要なことはわかっているが、何から手をつけていいのかわからない」というお話をよく伺います。その原因は「人事」という職種の、わかりにくさにあるのだと思います。
社員の離職を防ぎ、成長を促していくためには、まず「人事」という職種の全体像を理解することから始めてみましょう。
人事には、採用、配置、育成、評価、給与、福利厚生、教育など、さまざまな職務があります。大事なポイントは、これらすべてが密接に繋がっていることです。
人事の全体像を図に表すと、上記のようになります。まずは経営理念があり、経営戦略があり、それらに基づいて「どのような人材を採用するのか」「何人採用するのか」「どのように評価するのか」といった人事戦略を考えることになります。
前回お伝えした「戦略人事」や「人的資本経営」について、「何を今さら」と書いたのは、そもそも戦略は人事の基本だからです。
次にこれらを実施していくための人事制度をつくります。等級、職位、評価、給与、福利厚生など、それぞれの制度を決めていくことが必要になります。
たとえば、社員を「何」で評価するかによって、給与の払い方は変わってきます。
社員の「能力」で評価するのか、「成果」で評価するのか、「行動」で評価するのか。あるいは「年齢」や「勤続年数」で評価するのか。
「成果」で評価をするなら、成果次第で給与が変わる成果主義になるでしょう。「年齢」や「勤続年数」で評価するなら、いわゆる年功序列の給与制度になります。会社の理念や戦略によって、制度も変わってくるわけです。
そして、これらの制度を動かしていくためには、一定のルールが必要になります。勤務形態や時間管理、給与支給、それらを司る就業規則。これらの人事管理も、やはり会社の理念や戦略、制度に基づいて決める必要があります。
さらに経営戦略や人事戦略に基づいて、人員計画を策定し、採用を行い、異動を調整し、教育体系を作って、人材を育てていきます。社員が定着しない、成長しない会社は、この一連の流れに「矛盾」や「ブレ」があると考えられます。
わかりやすい例でいえば、「成果」で評価する制度になっているのに、実際には「年齢」「勤続年数」で給与を決めていたら、若い社員は当然不満を持ちますよね。その矛盾が「社員が定着しない」「成長しない」といった結果に表れてしまうわけです。