今まさに人事が必要な理由として注目されているのは、「戦略人事」と「人的資本経営」という2つのキーワードです。筆者はこの言葉を最近よく目にすることについては、「何を今さら」と思ってしまうところもあります。だって「人事」は「戦略そのもの」でしょうし、「人的資本経営」という考え方は20年以上前から既に使われていましたから。しかし今、なぜこれらの言葉が流行っているのか、その理由について考えてみましょう。
戦略人事とは、「企業経営において経営戦略と人材マネジメントを連動させることによって競争優位を目指そうとする考え方。および、それを実現させるための人事部門の機能や役割などを示す概念」といわれています。
要は、会社の将来を見据えて人事施策を描くこと。「人事にも戦略が必要だよね」「競合他社に勝つために人事部門も貢献しないとダメだよね」という考え方です。
一方、人的資本経営とは、「人材を“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」といわれています。
要は、人件費を「コスト」ではなく、社員を投資価値のある「資本」として捉えて、人に投資をして、生産性を高め、企業の価値を上げていこう、という考え方です。
なぜこの2つの言葉が話題になっているのかというと、みなさんもご承知の通り、日本の「生産性」や「給与」の低さが大きな課題になっているからです。
日本の労働生産性は、G7(主要先進7カ国)で最下位です。2021年にはOECD(経済協力開発機構)加盟国でも38カ国中27位に転落しました。これはデータが比較可能な1970年以降、最低の記録です。
賃金も低迷を続け、約30年間ほとんど上がっていません。現在の日本の平均年収はアメリカの半分以下。欧米先進国との差は開くばかりで、OECDでも下から数えた方が早い24位。韓国やシンガポールにも追い抜かれてしまいました。
これまでと同じように企業経営をしていたら生産性は上がらない。給料も上がらない。会社も成長しないし、日本も成長しない。このままではまずい…。日本全体が、特に政府がそう言い出していて、今改めて「人事」に注目が集まっているわけです。
では、実際に「戦略人事」や「人的資本経営」ができている会社は、どれくらいあるのでしょうか。のべ5200社、5,441人の企業人事を対象に調査した「日本の人事部 人事白書2022」(株式会社HRビジョン)の結果を見てみましょう。
「戦略人事は重要である」に「当てはまる」(56.2%)「どちらかといえば当てはまる」(30.5%)と回答した企業や人事は、合計86.7%。9割近くにものぼります。
しかし「人事部門が戦略人事として機能している」に「当てはまる」と回答したのは、わずか6.1%。「どちらかといえば当てはまる」も23.8%で、約7割の企業や人事が「当てはまらない」「どちらかといえば当てはまらない」と回答しています。