斗有かずお

斗有かずお

平成にのりおくれた昭和男です
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 平成十九年二月、猪野一郎はなんの目標もなく、バツなし独身で根無し草のように半生を費やしていた。この九年足らずは北千住を拠点に東武本線沿いで新聞拡張員を生業としている。  空風の吹き荒ぶ中、埼玉の越谷で勧誘している際に、身にも心にも沁み込んでいる寒さや冷たさ、堅気とは言い難い裏新聞屋の仕事に感じているむなしさから一時的に逃れようと、駅前のファッションへルス店に入る。敵娼は、「春風」という源氏名で、違法風俗業界から足を洗うこと決心した二十歳と称する女性だった。物悲しさを醸し出していたその裏ヘルス嬢に、次回の指名を約束する。  同月末に再び訪れたが、春風は予告よりも早く店を辞めていた。五十絡みの人の好さそうな本番ヘルス店長が預かっていた手紙を読んで、彼女の過去や自分との関連を知り、拡張員を辞めて表の新聞屋に戻るのも悪くないと思うに至る。
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小説 190,616 位 / 190,616件 恋愛 57,551 位 / 57,551件
文字数 27,742 最終更新日 2024.06.27 登録日 2024.06.26
なしてやろうか。雪が降り出したごたるーー。 昭和二十年の真夏の夜に、とある浦上カトリック信者を待っていたものとは。 この作品は「エブリスタ」にも投稿掲載しております。
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小説 190,616 位 / 190,616件 歴史・時代 2,387 位 / 2,387件
文字数 3,805 最終更新日 2024.05.12 登録日 2024.05.09
 あゆみは四年前に一目惚れした子持ちの聡一郎の後妻となった。入籍と結婚式をおえた後の披露宴の席で、亡くなった先妻に対して申し訳ない気持ちで一杯になる。 (400字詰め原稿用紙換算28枚)  この作品は「エブリスタ」にも投稿掲載しております。
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小説 34,405 位 / 190,616件 恋愛 15,122 位 / 57,551件
文字数 10,049 最終更新日 2023.01.15 登録日 2020.04.01
 猪野一郎は、練馬区石神井にある新聞販売店と、武蔵野市吉祥寺にある四年制私立大学に籍を置く、いわゆる新聞奨学生である。高校卒業後に一年浪人し、故郷の熊本から上京して八ヶ月足らず。バブル景気を迎えて世間が沸き立っていた昭和六十三年十一月に、新聞屋の仕事と大学の勉強を地道に両立させる生活にようやく慣れつつあった。  起床は、未明の三時ごろ。三百部を超える朝夕刊の配達の合間に通学し、晩には集金、販売拡張、翌朝の折込みの準備、読者管理といった業務をこなす。就寝は、深夜の十一時をすぎてしまう。時代に浮かれてお祭り騒ぎの普通の大学生たちを尻目に、雨にも負けず風にも負けず、都会の世知辛さや新聞販売業界の悪習にも負けず、親から自立し、社会に貢献していることを誇りに毎日を送っていた。  そんな一郎の最上の楽しみは、二トントラックを運転している担当読者の「佐藤の若奥さん」と、夕刊配達中にときおり路上で擦れ違うことだった。毎月の集金時にも、小学一年生の一人娘がいて訳ありのシングルマザーかもしれない三十歳前後の女性の明るい笑顔に、日々の厳しい生活でささくれかけた心をなだめてもらっている。  去る八月に、童貞のままで二十歳になった。新聞奨学生寮の同室の先輩から新宿区歌舞伎町の個室高級サウナに誘われつづけているが、彼女を「裏切る」ことはできずにいた。  昭和六十四年が明け、ほどなく元号が平成に改まったころから、夕刊配達中に佐藤の若奥さんを見かけなくなる。仲の良かった同僚の失踪に心を痛めていた二月下旬に、彼女が転出することを知り、愕然としてしまう。引っ越し当日の昼下がりに、集金のためにアパートの部屋を訪ね、トラック運転手を辞め転職していたことを聞かされた後に、一組の布団と電気ストーブだけが残った肌寒い六畳間で、素人でなくなった彼女を相手に初体験をする。  この作品は、エブリスタにも投稿掲載しております。
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文字数 35,346 最終更新日 2021.06.14 登録日 2021.06.05
 昭和二十年八月九日、永井緑は命を絶たれるも、夫の隆のために霊魂は現世に留まった。  後に浦上の聖者と呼ばれた永井隆博士と妻の緑の絆を、戦争や原爆に断ち切られていいはずがなかった。  (400字詰め原稿用紙換算34枚)  この作品は、「エブリスタ」にも掲載しています。
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小説 190,616 位 / 190,616件 児童書・童話 3,685 位 / 3,685件
文字数 11,956 最終更新日 2021.04.06 登録日 2020.04.02
恋愛 完結 長編 R18
 了治と了介は、熊本県出身の年子の兄弟。  母親に溺愛されて育った兄の了治は、九州大学、同大学院を出てキャリア官僚となった。元上司である代議士の一人娘に見初められて婿養子となり、いったんは官僚としての将来が約束されたが、二年前に離縁され、今は長崎の出先機関に左遷されている。  母親にほとんど愛されずに育った弟の了介は、幼少期に欠如した愛情を貪り続けているかのように女遊びが絶えない。九州大学の受験に失敗したのちに新聞奨学生、新聞販売店員、ソープランド店員、ソープ嬢のヒモを経て、今は新聞拡張員を生業としている。  兄が三十三歳、弟が三十二歳になろうとしていた二〇〇七年の二月に、二人はそれぞれの仕事に閉塞感を覚えていた。  了治は、本省への異動の内々示を受けたが、閑職巡りの役人人生が決定的となり、憂さ晴らしにデリバリーヘルスを利用する。ラブホテルの部屋にやってきた「セイカ」こと恵は、行きつけのパチンコ店のコーヒーレディーだった。下腹に帝王切開の傷痕を持つセイカの境遇に同情しながら指名を重ね、しだいに了治は恵に惹かれていく。  了介は、仕事の休憩時間中に越谷駅前のへルス店に入り、若いが子持ちの「苺」こと沙織に出会う。三月いっぱいで違法地帯にある本番ヘルスから足をあらうことを決め、顔や体から物悲しさを醸し出している苺に対して親近感を抱くが、指名後に一変した、不可解な態度に戸惑いを覚える。  兄と弟は、やむなく性風俗業界に身を落とし厳しい現実を生きているセイカと苺との出会いを機に、それぞれの人生を振り返りはじめる。やがて春がきて、了治と了介、そして恵と沙織は、新たな人生を歩んでいく。  三年後、春の風が吹くころに、了治と恵、そして了介と沙織は再会を果たす。 (400字詰め原稿用紙換算379枚 この作品は「エブリスタ」にも投稿掲載しています。)
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小説 34,405 位 / 190,616件 恋愛 15,122 位 / 57,551件
文字数 136,408 最終更新日 2021.01.16 登録日 2021.01.11
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