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羽綺の母は、十八歳のときに神隠しにあった。
そして、羽綺を生んだ。
崚国の名門・楊家に生まれた羽綺だったが、出自のせいで、誰もが羽綺を気味悪がり、いつも遠巻きにされていた。楊家の一族とも、使用人たちとも、ほとんど口をきくこともなく過ごしている。
そんな羽綺の楽しみは〈書〉と〈午睡〉だ。
筆をとり、字を書いているときは無心でいられる。
夢の世界でなら、どこへだって行ける、好きなことが出来る。
さて、ある日、羽綺に唐突な縁談が舞い込んだ。
「相手は皇帝の末の弟であり、夜王の号を賜った人」
「今夜、夜王府から迎えが来る」
わけもわからず夜王府に嫁ぐことになった羽綺だったが、夜王府に到着すると、どうやら夜王は羽綺に会うつもりがないらしく、姿を見せない。
かわりに現れたのは、黒と青の斑の毛並みをした、三本の優美な尾を持つ、ひとつ眼の魔物で――……?
文字数 43,368
最終更新日 2024.01.22
登録日 2023.12.26
彼の部屋にはしばしば花が飾ってあった。
彼は美しいものが好きな人だった。
表面ではなく、内面のうつくしさを見詰めることのできる人だった。
十一月二日、私は彼に花を贈ろう。
文字数 2,262
最終更新日 2023.11.02
登録日 2023.11.02
「どうしてわたしなんかを――……?」
問いかけると、年下のはずの彼は、すこしだけ大人びた微笑を見せた。
「ひみつだよ。――だって、そうしたらあなた、もっと僕のことを考えてくれるでしょう?」
宵国は、月仙女・姮娥娘々(こうがニャンニャン)の加護を受けて栄える国だ。
蘇紅月(そ・こうげつ)は、算術好きの変わり者。そのせいもあって、かつて婚約者に棄てられ、二十五歳になる今も独身のまま、自室で算盤と算木とに向き合うことだけに楽しみを見出す日々を送っていた。
そんな紅月のもとに、ある日、突如として、皇太孫(皇太子の嫡男)との縁談ばなしが舞い込んでくる。
皇太孫・李朗輝(り・ろうき)は、成人したばかりの十六歳。
自分などがそんな彼のお妃候補になどなるはずもない。もしかしたら何かの陰謀なのではないか。
そんなふうに疑いつつも、お見合いに出掛けた紅月を迎えたのは、涼やかな美貌を誇り、明るく溌溂とした少年だった。
隠そうとしても隠しきれない算術好きのために、奇異な行動、奇異な発言をしがちな紅月を、けれども朗輝は、ちっとも気にしたふうがない。
それどころか、紅月に対して甘い言葉を囁き、ぐいぐいと迫ってくる。
戸惑いながらも、どきどきしてしまう紅月だったが、その後、朗輝とともに出掛けた港で、紅月の元許婚とふいに再会したところから、事態は租税の不正案件という、思わぬ方向へと転がり始め――……。
算術マニアでちょっぴり引きこもり気味の行き遅れ令嬢、お見合いをきっかけに、年下皇太孫殿下から、謎の溺愛モードに突入……??
果たして、朗輝が紅月に求婚した理由とは――……?
文字数 107,549
最終更新日 2023.09.28
登録日 2023.08.31
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