「HV重視のトヨタは正しかった」は誤解?EVシフト否定は単なる自己都合

 一方、EV大国となりつつあるのが中国だ。中国政府は国策としてEV産業の育成と輸出促進に力を入れており、27年までに全新車販売に占める新エネルギー車の比率を45%にする目標を掲げ、企業への優遇税制や補助金なども積極的に行っている。

EV開発に力を注いできた日産に逆風

 こうした変化の影響を大きく受けているのが、EV開発に力を注いできた日産だ。同社は2010年12月に世界初の量産型EV専用モデル「日産リーフ」を発売するなど、EV市場をリードする存在だった。23年のEVの国内販売台数(軽自動車含む)では同社の「サクラ」が1位になるなど国内EV市場では存在感は大きい。その一方でHV開発は遅れ、同社がハイブリッドエンジンシステム「e-POWER」を搭載する「ノート」のマイナーチェンジ車を発売したのは16年のことだった。現在ではノートに加えて「エクストレイル」「セレナ」などでHVを揃えているが、国内ではトヨタやホンダに押され気味だ。そして北米市場では前述のとおりHVを投入できていない。

 一方、トヨタは世界に先んじてHV開発に取り組んできた。1997年に世界初の量産ハイブリッド乗用車「プリウス」を発売し、現在、世界のHV市場でシェア1位。豊田章男会長が今年1月の講演で「いくらBEV(バッテリー式電気自動車)が進んだとしても市場シェアの3割だと思う」「エンジン車は必ず残る」と語った言葉に象徴されるように、EV開発には慎重な姿勢を示しており、同社初の量産型EV「bZ4X」を発売したのは日産に遅れること12年、2022年に入ってのことだった。26年までに世界で年間150万台のEVを販売するとの目標を公表していたが、9月にはこの計画数値を3割引き下げて100万台程度にすると発表した。

 このほか、自社初の量産型EV「ホンダe」を20年に発売したホンダは「2040年に脱エンジン」を宣言しているが、世界的なEV失速を受けて戦略の見直しに動くとみられている。

トヨタの自己都合

 現在の状況を受けて、EVに前のめりにならなかったトヨタの経営判断をめぐり「やはりトヨタは正しかった」「なぜ間違わなかったのか」「なぜHV需要が高まると読めたのか」などと注目されているのだが、自動車業界に詳しいジャーナリストの桜井遼氏はいう。

「大前提としてトヨタは巨大な系列グループ内に多くの部品メーカーを抱えているため、グループを維持していくためには、内燃機関車と比べて部品点数が大幅に少ないEVが市場の主流になると困るという事情を抱えています。豊田会長はこれまでもたびたび自工会の会見などで『車がすべてEVになるという考えは間違っている』という主旨の発言を繰り返していますが、その延長線上にある発言ととらえるべきでしょう。

 また、業界リーダーのトヨタがEVシフトに否定的な姿勢を見せることが、トヨタと異なり資源が限られているため取捨選択して一部のカテゴリー車の開発にしか注力できない競合他社に圧力をかけることにもつながっています。

 トヨタはマルチパスウェイを掲げて全方位戦略をとっていますが、それは資金力のあるトヨタだからこそできることであり、他社はEVやエンジン車など一部のエネルギー車に注力せざるを得ません。特に日産の場合はカルロス・ゴーンの時代から研究開発費を絞っており、加えてHV開発には大きく出遅れていたことから、EVに集中せざるを得なかったという事情があります。

 現在は一時的にHVが復調傾向でEVが失速していることで、トヨタに追い風が吹いているものの、世界全体の自動車市場をみるとHVが突出して比率が高いというわけではなく、今後世界のメーカー各社がEVを投入してラインナップが揃ってくれば、徐々にEVのシェアは伸びてくるでしょうから、状況が大きく変わる可能性はあるでしょう」