独立系のシステム開発会社・富士ソフトをめぐり、外資系投資ファンドが数千億円の買収金額を提案して争奪戦を繰り広げるという事態が生じている。一般的な知名度が高いとはいえない富士ソフトとは、どのような会社なのか。また、なぜ同社の買収争いが起きているのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
1970年創業の富士ソフトはシステム開発受託で成長し、2000年代に入ると積極的なM&Aを重ねて規模を拡大。現在は業務系システム開発、組込・制御系システム開発、プロダクト・サービスの3つが主力事業。業績は一貫して拡大傾向にあり、富士ソフトグループの2023年12月期連結決算は売上高が2989億円、営業利益は207億円と好調。24~28年度までの中期経営計画では28年度の売上高4350億円、営業利益450億円の達成を目指す。
独立系のシステム開発会社としては、売上規模ベースではSCSKやBIPROGY(旧:日本ユニシス)などに次ぐ存在。従業員数は単体で約1万人、連結で約1万9000人を擁する大企業だ。
「システム開発の世界は建設業界と同様に元請け企業の下に二次受け、三次受けがぶら下がる多重下請け構造となっているが、特定の業界に限らず大規模な開発案件では富士ソフトが入っていることが多い。どの業界でもオールラウンドで対応できる点や、自社で抱えているエンジニアの数が多いので頭数を揃えられる点が同社の強みだろう。ある案件のコンペで複数の大手SIerが競ったとして、どこが受注しても現場で実際にゴリゴリとプログラムを書く要員は結局は富士ソフトの人間というケースもあるだろう。それが独立系SIerの強みでもある。
もっともシステム開発業界の現場の人間にとっては、『富士ソフトが外資系ファンドから6000億円で買収を仕掛けられている』と聞いても、『なんで、あの富士ソフトが?』という感じでピンとこないだろう」(大手SIer管理職)
そんな富士ソフトの争奪戦が起きている。同社は現在は東京証券取引所プライム市場に上場しているが、非公開化を検討しており、米投資ファンドのKKRは8月、富士ソフトに対して1株8800円でTOB(株式公開買い付け)を実施し総額約5600億円で買収すると発表。富士ソフトもこれに賛同すると表明しており、すでにKKRに独占交渉権を与えている。
だが今月に入り、米投資ファンドのベインキャピタルが、富士ソフトに対してKKRの提示額を上回る6000億円規模での買収を提案していると発表。KKRは4日、TOB開始の前倒しを決定したが、富士ソフトはベインから法的拘束力のある提案を受ければ慎重に検討するとしており、先行きが見えにくい状況となっている。
「事業会社と違って投資ファンドの場合、企業買収の目的は安く買って高く売り抜けることなので、株価が割高だと判断すれば買いには動かない。富士ソフトは株式市場でそれほど大きく注目される存在ではなかったこともあり、PBR(株価純資産倍率)が4.49倍(5日現在)と、ものすごく割高というわけではない。富士ソフトの純資産や営業利益、PBRなどを総合的に考慮すると、6000億円レベルで買収しても割高ではないと投資ファンドは判断したのだろう。
日本では2000年頃に開発されたシステムが老朽化で一斉に更新を迎える『2025年の崖』があり、少なくても今後5年間はシステム開発の需要が旺盛な状況が続くため、富士ソフトの業績が伸長するのはほぼ確実。加えて同社はEV化が進む自動車や半導体製造装置をはじめとする製造業向けの組込・制御系システムの開発受託に強く、この分野も今後は成長が確実視されている領域。業績拡大と経営効率化を進めて企業価値が高まれば株価も伸びると投資ファンドは考えている。
基本的に投資ファンドは、利益さえ伸びていれば投資先の事業にうるさく口を出してこない傾向があるので、富士ソフトにとっても上場維持のコストと労力、そして上場に伴うさまざまな制約から解放されて事業に専念できるというのはメリットが大きい。あとは筆頭株主のシンガポールの投資会社3Dインベストメント・パートナーズがKKRとベインのどちらを選ぶのか、ということになる」(メガバンク系ファンドマネージャー)
(文=Business Journal編集部)