日本銀行の国債買い入れ減額や政策金利の利上げなど金融引き締めへの政策転換を受け、国債の未消化による格付け引き下げや国債暴落、日本企業がドルを調達しにくくなる事態などが起きる懸念も指摘され始めている。こうした懸念が現実のものとなる可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
日銀が金融緩和策を深掘りするためにマイナス金利政策を導入したのは2016年。日銀は金融機関から預かる当座預金(一部)の金利をマイナス0.1%に設定し、市中の資金循環を促進。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)も導入した。加えて財務省が発行する国債を大量に買い入れて国債の消化を支え、現在、月の買い入れ額は6兆円程度(今年7月現在)、国債保有比率は47%(3月末現在/国庫短期証券含む)に上るまで膨れ上がった。
一連の金融緩和策が大きく転換されたのが今年3月。日銀は物価が安定的に2%上昇する環境が見通せるようになったと判断し、金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除して日銀当座預金に適用する金利を0.1%に引き上げ、政策金利である無担保コール翌日物レートを0%から0.1%程度で推移するようにすると決定。さらに7月31日には政策金利を0.25%に引き上げ、国債買い入れ額を現在の月6兆円程度から26年1~3月に同3兆円に減額する方針を決定した。
これに市場は大きく反応。追加利上げ観測も強いなか、米国の景気減速懸念や日米金利差縮小による円安ドル高の後退、それによる輸出企業の業績減速懸念などが加わり、株価が急落。日経平均株価は先週金曜(2日)の終値が前日比2216円63銭安の3万5909円70銭となり、下げ幅は1987年10月20日のブラックマンデーに次ぐ歴代2番目の大きさとなった。
日銀による国債買い入れ減額を受け、新たな引き受け手になると期待される、かつての最大の引き受け手であった民間金融機関だが、現在の銀行の国債保有比率は13.5%、生命保険会社・損害保険会社は同16.3%にすぎない。
「アベノミクスの大規模金融緩和で新規発行される国債の大半を日銀が引き受けることになり、市中で取引される国債の量が減り国債トレーディングで大きく利益をあげることが困難になり、日本の金融機関も外資系金融機関も取引量と専門部署の人員を大幅に削減した。なので、すぐに取引を活発化させることはできない。また、国債の金利が上昇する分、含み損が発生することになるので、金融機関はリスク回避の観点からも多くの国債を保有することは避けなければならない。
そこで財務省が目をつけているのが海外投資家と国内の個人投資家だ。財務省は海外のファンド・投資家に積極的に売り込んでいく意向だが、利回り一つとっても米国債と比べて魅力は劣り、思惑通りには進まないだろう。また個人の国債保有比率は約1%であり、大きな引き受け手にはなり得ない」(メガバンク系ファンドマネージャー)
日本の政府債務残高は国内総生産(GDP)の2倍以上であり、国の財政は国債に大きく依存しているため、もし国債の消化が滞れば国債の格下げや、それに伴い日本企業のドル調達が困難になる事態、さらには国債暴落が生じる懸念も一部では指摘されている。第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの永濱利廣氏はいう。
「むしろ円高・株価暴落を通じて日本経済にマイナスの影響が及ぶでしょう。というのも、日銀の金融緩和は円キャリートレードなどを通じて世界中に流動性を供給していましたので、これが金融引き締めで巻き戻すとなると、マーケットは急速なリスクオフになります。となると、むしろ安全資産の国債は買われるようになり、需給面での国債リスクは低下するでしょう。しかし、これまでがそうであったように、そもそも財政は円安・インフレ・株高の局面で改善するため、日銀の金融引き締めがきっかけでマーケットが極端にリスクオフになれば、円高でインフレが低下し、来年の春闘も期待薄となるでしょう。となると、結果的にファンダメンタルズの悪化に伴うディスインフレを通じて財政が悪化に転じるパスを通じて、国債の格下げリスクが高まる可能性があります」
前出・ファンドマネージャーがいう。
「大手銀行は財務省の意向を受けて、ある程度の規模の額の国債を引き受けることにはなるだろうが、大きく増やすことは難しい。海外プレイヤーの存在感が増すことになるが、海外投資家の保有比率の上昇はリスクとみなされ、加えて日銀による安定的な消化というプラス要因が減るので、格下げにつながる可能性は高まるだろう。そうなれば連動して日本企業のドル調達コストが高まることになる。さすがに国債価値の暴落が起きるとは考えにくいが、そのリスクを注視する必要があるだろう」
(文=Business Journal編集部、協力=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)