メーカー側にとってもEVに積極的にはなりにくい面があるという。
「製造コストのうち大きな部分を占める車載電池の原材料であるレアメタル・レアアースは、埋蔵地が途上国に偏っており、調達には地政学的なリスクが伴う。安定的な調達のため中国は政府が主導するかたちで埋蔵国の囲い込みを進めており、欧米や日本の大手メーカーですら原材料の調達に苦労し始めている。既存の大手自動車メーカーにしてみれば、エンジン車と比べて使用する部品が少なく製造が容易なEVが台頭すれば、ベンチャーや他業種企業の参入により優位性を失ってシェアを食われる可能性もあり、参入障壁が高いエンジン車が市場の主力であり続けるほうが都合が良い。
また、欧州がEVにシフトしたのは、ディーゼルエンジン不正でフォルクスワーゲンをはじめとする欧州の自動車メーカーが脱ディーゼルエンジンに舵を切らざるを得なくなったからだが、蓋を開けてみれば世界のEV市場では中国勢の席巻を許す結果となってしまった。そのため、自国の自動車産業保護のためにEV推進を転換させる可能性も十分にある。
もっとも、原材料の調達から製造、走行、廃棄までをトータルに考えると、EVのほうがガソリンエンジン車より環境負荷が低いとはいえず、そうなるとEV推進の大義がなくなるので、各国政府は自ずとEV推進の旗を降ろさざるを得なくなる」
こうした状況のなかでHVとPHVの販売が伸びており、これが日本の自動車メーカーの追い風になるとの見方もある。たとえばトヨタは24年3月期決算が過去最高益になった要因として世界的なHV販売の好調をあげているが、トヨタの今年1~6月の米国におけるHV販売台数は前年同期比66%増の41万台となっており、トヨタの北米販売に占めるHV比率は3割にも上っている。米国HV市場でのトヨタの販売シェアは実に6割近い。
「1充電あたりの航続距離が400km以上のEVも増えていますが、日常的に400kmも走行するケースは一般的ではなく、オーバースペックといえます。そこで求められてくるのがPHVです。最小限のバッテリを搭載して日頃は電動モーターで走行し、必要時のみ熱効率が高くクリーンなエンジンで走行するような車両であれば、ユーザの利便性を損なわずに低い環境負荷を保てるでしょう。採掘・生産コストが高いレアアース、レアメタルを大量に使用するEVと比べて、エンジン車は原材料が比較的安価であり、技術的な蓄積が豊富なため製造コストが低く済む点もメリットです」(日本大学理工学部教授の飯島晃良氏/24年6月7日付け当サイト記事より)
(文=Business Journal編集部)