キャンプ・アウトドア用品大手のスノーピークが国税局から、2020年12月期から22年12月期までに約6億円の申告漏れを指摘され、過少申告加算税を含めた追徴額は約1億5000万円に上ると報じられた。かつては人気の高かったスノーピークだが、印象の悪いニュースが続いたことで、批判の声が高まっている。ネット上では、スノーピークが脱税したと勘違いして経営陣を非難する向きもあるが、申告漏れと脱税はどのように違うのか、専門家に解説してもらった。
スノーピークは1980年代から90年代にかけてオートキャンプブームを牽引し、アウトドアブランドとしての地位を確立。“値段は高いが品質は良い”との評価が多く、高級ブランドと思われがちだが、全ての商品に「永久保証」が付いており、修理など充実したアフターサービスによって、ユーザーからは「コスパは決して悪くない」との声も多く上がっている。
コロナ禍にキャンプブームが到来すると、キャンプ施設やリゾート施設などを次々に開設し、業績も急速に向上。コロナ前には1000円前後だった株価も、2021年9月~10月には5000円台から6000円台で取引されるほど高騰していた。
そんなスノーピークにケチが付き始めたのは2022年9月、創業者の孫で3年前に社長に就任した山井梨沙氏が、一部週刊誌で既婚男性との不倫と妊娠を報じられ、社長職を辞職したことによる。不祥事が発覚するや、ネット上でスノーピーク社や同社製品などに対する誹謗中傷が激化したため、同社は誹謗中傷の投稿を行った人物に対する法的措置を宣言。
ネット上の誹謗中傷に対する法的措置は、ある意味で当然の権利ともいえるが、企業側の不祥事に端を発する場合、企業のリスクマネジメントとしては一般的に、ほとぼりが冷めるまで静観するのが常道。しかし、スノーピークが法的措置をとると発表したことで、ネット上では同社が“逆切れした”と受け取る向きも多く、かえって評判を落とす結果となった。
過熱気味だったキャンプブームが落ち着き、スノーピークの株価もコロナ禍以前と変わらないくらいまで下がってきた2023年12月期連結決算は、売上高が前期比16.4%減の257億円、営業利益が同74.3%減の9億円、純利益は同99.9%減の100万円だった。赤字ではなかったものの、「純利益99.9%減」は衝撃を持って報じられた。
そしてその直後、経営陣と米投資ファンド・ベインキャピタルの共同出資によって自社株買収(MBO)を実施すると発表し、株式の公開買い付け(TOB)を行った。だが、純利益99.9%減という、業績悪化を発表することで株価の下落を招き、いわば底値での株式買い取りを狙ったような流れに対し、株主などから不満が続出。
このように経営陣に対する不信感が高まっているなかで、今回の申告漏れ報道である。
スノーピークは、国内で計上すべき所得を海外に移したとして、関東信越国税局から、2020年12月期から22年12月期までに約6億円の申告漏れを指摘された。過少申告加算税を含めた追徴額は約1億5000万円に上るという。
申告漏れと聞くと一般的には、「利益の一部が申告されていなかった」「あくまでも経理上の些細なミス」ととらえがちだが、スノーピークに対しては、「意図的に利益を隠していたのではないか」といぶかる向きも多い。
そこで、元国税局職員でお笑い芸人のさんきゅう倉田氏に、「申告漏れ」「所得隠し」「脱税」の違いについて解説してもらった。
「一般に、不正がなければ『申告漏れ』として報道され、調査によって増加した所得が公表されます。今回は、移転価格税制を適用し、企業が海外子会社との取引を通じて子会社に利益を移したとみなされています。このような場合に、脱税や所得隠しといった不正として扱われるケースは少ないようです。なお、『脱税』は国税局査察部が強制調査を行ったときに用いられる用語で、報道では明確に『所得隠し』と分けられています」
つまり、国税局はスノーピークに対し、経理上の処理に問題はあるものの“不正”はないと判断したといえる。
実はスポーツ用品メーカー大手のヨネックスも5月に、同様の申告漏れが指摘されている。ヨネックスの場合も、海外の子会社との取引によって本来、日本で計上すべき約11億円の利益を海外に移していたとして、東京国税局から約2億円を追徴課税されている。
ちなみにスノーピークは7月9日、経営陣による自社買収(MBO)の実施に伴い東京証券取引所プライム市場で上場廃止となった
(文=Business Journal編集部、協力=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)