日本生命の元職員、顧客個人情報を公開…生保会社、客の金銭詐取が続出の理由

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日本生命保険のFacebook公式ページより

 日本生命保険の元女性職員が、インターネット上にプロ野球球団・読売巨人軍の選手への殺害予告を30回以上にわたり投稿し、威力業務妨害の容疑で逮捕された。女性は日本生命の顧客情報管理システムの当該選手の画面を撮影し投稿していた。なぜ生保職員・元職員による不正や犯罪が絶えないのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 生保元職員による不正事件として世間から大きな関心が寄せられたのが、2020年に発覚した、第一生命保険の元・特別調査役の女性による約19億円の金銭詐取事件だった。女性は計24人の顧客に架空の金融取引を持ちかけていたが、同社では他にも元職員による複数の金銭詐取事案が発覚し、被害総額は20億7690万円に達した。

 昨年には、日本生命の元営業職員が90代の女性に架空の保険契約を提案するなどし、約1532万円をだまし取っていたことが発覚。先月には明治安田生命保険の元営業職員が顧客10人から約1億3000万円をだまし取っていたと発表。1994年から2021年までの間、保険料を着服したり、顧客から預かった通帳を使って、契約した保険を担保にお金を借りる制度を悪用して振り込まれたお金を着服していた。

 なぜ生保職員による不正が相次いでいるのか。大手生保社員はいう。

「現場の生保レディは顧客と非常に親密、かつ何年ものお付き合いをするケースも珍しくなく、顧客から心を許されて通帳を預けられることもある。顧客のなかには高齢で高額な資産を持つ人もおり、業務で扱う金額は何千万単位と高額で金銭感覚が麻痺しやすいうえに、生保レディの給与はそれほど高いわけではない。こうした事情が重なり、『自分もちょっとぐらい得していい』『相手の判断能力が低下しているからバレない』と勘違いして不正に走る人が出る。もっとも、生保会社で働く営業職員は全国で20万人以上おり、確率論的に悪いことをする人が一定数出てくるのは避けられない」

営業職員の独特な労働環境

 不正が相次ぐ生保会社だが、その業務は金融庁によって厳しく監督されている。発売する商品や各種契約書類などはすべて金融庁の認可が必要であり、保険募集においては顧客への情報提供や意向把握が義務化されており、逸脱行為があれば金融庁から業務改善命令や業務停止命令などの行政処分を受ける。

 そんな生保の営業現場を支えてきた営業職員の労働環境は独特であることが知られてきた。いわゆる「ターンオーバー」といわれる大量採用・大量離職が常態化し、かつては入社2年後の離職率は7~8割にも上るといわれ、人の入れ替わりが激しかった。背景には過酷なノルマと歩合給がある。飛び込み営業を強いられ、ノルマ未達の際には知人に名義を借りて新規の保険契約をつくり、自腹で払う「自爆営業」も横行。給料のうち歩合給の割合が大きいため、契約が取れないと給料が著しく落ち込む仕組みも長く続いていた。

「親戚や知人の生命保険契約を切り替えさせ、契約に入ってくれる知り合いがいなくなれば辞めてもらうという“使い捨て”が当たり前だった」(同)

 そんな環境がここ数年、大きく変化している。日本生命は採用数の目標値を撤廃し、21年度の採用数は前年度より15%程度減少するなど、各社は年間の採用数を抑制。平均賃金を一律で引き上げ、固定給の割合を増やしたり、既存顧客の継続率やアフターフォローへの取り組みを評価に組み入れるなど“新規契約獲得主義”からの脱却を進めつつある。

「かつて生保の支店や営業所では、営業職員の成績を壁に貼りだしたり、成績が悪い職員を怒鳴ったりといったことが普通に行われていたが、今ではどの大手でも、そのような光景はほとんどみられなくなったのではないか。ネット生保や保険ショップの台頭により、対面の営業職員経由での新規契約の数が減っているものの、いまだに対面営業は主要な販売チャネルではことには変わりない。だが、“生保の営業の仕事はキツイ”というイメージが定着していることや、全業界での人手不足で他にも仕事がたくさんあることも影響して、かつてのように黙っていても営業職員のなり手が集まるという状況ではなくなった。