2000年代以降、表面的にはなくなっています。ただ、水面下ではひそかに続いているともいわれています。これは、寄付金を集めることで財政を安定させたい大学側、寄付金を払ってでも子弟を入学させたい保護者(多くは開業医)側、双方の都合がマッチしているからです。入学前に寄付金を求めることはさすがにしないにしても、合格決定後となると話は別です」
予備校関係者はいう。
「一昔前と比べて減ったものの、ごく一部の医学部で続いているという言い方が正しいかもしれない。東京医科大学の事件では受験生の親と大学の間に立つブローカーが介在するケースだったが、以前からあるように医学部専門予備校が入口になって寄付金で点数を買うというかたちが典型的。だが、現在ではこのようなことをやっている予備校や医学部は本当にごく一部だとみられている。
点数の金額の相場としては昔から『1点あたり100万円』ともいわれているが、100点だと1億円なので、自分の子どもを医学部入れるためにそれくらいの金額を出す人はいるだろう。医学部の入試は筆記試験と面接の点数で判定され、基準があいまいな面接が含まれるため、明確に『あと何点必要』とはなりにくい。実態としては『●●円払えば入学させますよ』というかたちもあるようだ。ただ、大学側も在校生の医師国家試験の合格率が悪いと受験者数の減少につながるので、裏口入学的なことをやっている大学でも、そのルートで入学させる人数の枠は少ない。
東京女子医大は同窓会組織が窓口的な立ち位置になって、そこから推薦を受けるかたちになっており、いわば大学自身が直接、裏口入学に関与していたようなもの。裏口入学どころか、ブローカーすら介さず堂々と入試不正をやっていたようなもの。驚きを通り越して呆れるばかりだ」(予備校関係者)
東京女子医大の学費は高いことで知られている。入学1年目は入学金や授業料、施設設備費など合計で約1145万円、2年目以降は年約695万円で、6年間で計約4621万円にも上る。もっとも学費が高いとされる川崎医科大学の約4700万円に迫る金額となっている。ちなみに国立大学の医学部の学納金は文科省の省令で年間53万5800円と定められており、6年間の総額は入学金含めて約350万円。
「医学部の偏差値と学費の高さは反比例する傾向があり、東京女子医大は以前は私立大学の医学部のなかでは中位ゾーンのランクだったが、たび重なる不祥事で徐々に偏差値が下がっていたところに21年度の大幅な学費値上げが加わり、現在では下位クラスにまで落ちている。それでも『医師になれるなら』ということで志望する人は一定数いる。
ただ、もし寄付金で入試の合否が左右されているとなれば、文科省も来年度の私学助成金を不支給にするだけでは済まさないかもしれず、単独での行き残りは困難になってくる。経営陣の刷新を含めて解体的な出直しを迫られることになる」(大手予備校関係者)
東京女子医大は現在、経営危機に陥っている。臓器移植や心臓外科などで豊富な実績を持ち定評があった同大だが、その経営が悪化し始めたきっかけは2度にわたる医療事故だった。01年と14 年に患者が死亡する医療事故を起こし、厚労省から特定機能病院の認定を取り消され、私学助成金も減額。患者が大幅に減少し経営が悪化していたなかで、19年度に理事長に就任したのが創業者一族である岩本絹子氏だった。経営再建と称して賞与の大幅削減などに取り組む一方、設備の建て替え・新設に資金を投入。20年には経営悪化を理由に職員の一時賞与をゼロにすると発表したことを受け、約400人の看護師が一斉に退職する意向を表明。同年には理事室を新校舎の彌生記念教育棟に移転させる費用として6億2000万円を計上している疑いが発覚し、職員からの反発に拍車をかけた。