富士そば、2300円のインバウン丼は「ぼったくり」ではなく適正な価格…理由

 まず、この玉子丼の2300円という金額の妥当性をどう評価すべきか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「一般的な飲食店の材料費率は約30%ですので、2300円だと材料費は690円くらいということになり、これが最初の判断基準ラインになります。そして、他では食べられないメニューなのか、素材に希少性はあるのか、自宅でつくれるか、つくるのが面倒か、味はどうか、など、お客さんの心理的な要素が加わり、高く感じるか安く感じるかが判断されることになります。同じボリュームでも、安い肉や米、卵を使えば売値1000円くらいでも販売可能だと思いますが、2300円で販売するからには、材料の質や手間など相応の理由があるのだと思います。もちろん、観光地価格的なインバウンド価格、話題性のための料金設定など、プラスアルファの部分で割高に設定されている可能性もありますが、食べた人の判断によるでしょう」

 インバウンド価格を設定する飲食店は増えているのか。

「場所によります。秋葉原や築地といったインバウンドが多く見こまれる場所や、何か目的があってネットで事前に調べて来る人が多い場所は、外国人観光客が喜びそうなメニューを用意し、相応の価格設定するところが増えています。一方、あまり外国人が訪れない場所ですと、中途半端にインバウンド用のメニューを用意しても、売れなければ手間(オペレーションの増加)やロスが発生し逆効果となってしまいます」

インバウンド価格の料理が高価格である理由

 インバウンド価格の料理は、原価の割には価格が高く設定されているのか。

「高めに設定されることが多いと思います。理由としては、多くの外国人観光客は、

・そのとき、その場限りの時間を過ごす
・料理に見合った適正な価格がよくわからない・旅行ということで財布の紐が緩みやすい

といった点が挙げられます。『せっかく日本に来たのだから、コストをかけてでもいいもの、おいしいものを提供してあげよう』という真面目なお店が、材料費の積み上げから売値を計算した結果、販売価格が高くなるというケースもあるでしょう。お祭りの屋台価格や観光地価格があるのと同じ理由で、インバウンド価格が存在するのだと思います」

 安いほうが、より多く売れるため、あえて割高なインバウンド価格のようなものを設定する必要はないという考え方もあるかもしれない。また、日本人客離れも起こす懸念も感じられるが、飲食店がそのようなインバウンド価格を設定する理由は何なのか。

「理由はシンプルで『そのほうが儲かるから』です。イートインの場合、席数が限られているので『できるだけ高く、より多く売る』ほうが儲かります。ランチタイムに1000円のランチを40食売ると4万円の売上で、1500円のランチを30食売ると4万5000円の売上となります。販売数が減っても売上は増えますし、労力や諸経費も減ったりします。また、店舗の全商品をインバウンド価格にするのはリスクが伴いますが、一部インバウンド価格の商品を用意して、お客さんに選んでもらうのであれば、選択肢は広がり利便性が増すことになります。質のいいものを使ったり、ボリュームを増したり、正当な理由があってお客さんが納得するような高額商品なら、日本人でも選ぶ人もいることでしょう。しかし理由のない『ぼったくり』のような商品でしたら、国内のみならず海外にもインターネットやSNS上の口コミによって悪い評価が広まりマイナス効果が生じるため、適正価格で勝負したほうがよいでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)