ディズニーR「ハードル高い場所」化…高額出費&入念な下調べなしで楽しめず

 パークに入場後、もし人気のアトラクションやキャラクターグリーティングを利用したい場合は公式アプリで無料の「東京ディズニーリゾート40周年記念プライオリティパス」を取得するとスムーズだ。そこから利用したい施設を選択し、指定された時間のパスを取得。自分で利用時間を選ぶことはできないが、短い待ち時間で施設を利用できる。当然ながら数に限りがあるため、希望のアトラクションを利用できない可能性がある。他の施設を取得する場合、取得から120分後もしくは取得した同パスのご利用開始時刻のいずれか早いほうの時間を過ぎると取得することができる。同じ施設を再び取得する場合、取得した同パスの利用後、もしくは利用終了時刻以降となる。

 一方、有料のDPAを取得すると、時間や入場時刻を指定して予約でき、短い待ち時間で利用できる。一例としてアトラクションの「スプラッシュ・マウンテン」は1500円、「エレクトリカルパレード・ドリームライツ」は2500円となっている。

客数を抑えつつ客単価を引き上げる戦略

 以上のとおり、以前と比べるとチケットシステムが複雑化し、かつ高額化しているといえる。久しく足を運んでいない人は、隔世の感を抱くかもしれない。

 テーマパーク経営に詳しい明治大学経営学部兼任講師の中島恵氏はいう。

「以前と比べると、現在はアプリが複雑化しすぎており、加えて客の出費が高額化しているという印象があります。丸1日いて園内の飲食施設を使用しないというのは難しいので、確実にいくつかのアトラクションを体験しようと思えば、一人当たり2万円以上の出費は覚悟しなければなりません」

 このような変化の背景には運営元のオリエンタルランドの戦略転換があるという。

「以前から激しい混雑と行列の待ち時間の長さが問題視されており、その解消が課題となっていたところでコロナ禍による売上減に襲われ、オリエンタルランドはリストラを余儀なくされました。2011年の東日本大震災の際には一定期間の休業も経験している同社としては、客数に頼ることなく、混雑と行列を回避するためにできるだけ客数を抑えつつ客単価を上げることで利益を伸ばすという戦略に転換しました。テーマパークというのは装置産業であり、多額の投資をして設備をつくり、スタッフとして多くの人的リソースを投下する必要があるため、できるだけ客単価を引き上げておくことが重要となってきます。

 そして、スマホが普及したことで、来場者がスマホのアプリ上でチケットを購入したりアトラクションの予約をできるようなったことも同社にとっては追い風となりました。『プライオリティパス』は発行数に限りがあり、人気のアトラクションはすぐになくなってしまうので、客に『また来て、今度は確実にあのアトラクションに乗れるよう有料のDPAを買おう』と思わせるリピーター獲得戦略になっている面もあるかもしれません」(中島氏)

オリエンタルランドは過去最高益

 こうした変化は、ユーザにとってはメリットがあるといえるのか。

「確かにシステムが複雑化し、アプリを使いこなせない人や入念な下調べをしない人は楽しめない『ハードルの高い場所』になったことは事実でしょう。高額化によって中流の上位層以上向けの場所になったことも確かでしょう。一方で、かつては夏は暑く冬は寒いなかで潮風に吹かれて3時間以上も行列に立ちっぱなしで並んだり、ワゴンでドリンク1本買うのに30分以上も並ぶのは当たり前でしたが、アプリの利用によってこうした苦労から一部解放されたというのは、良いことだとは思います。ファストパスを取得するために、ざわざわそのアトラクションのところまで行く手間もなくなりました。

 運営会社としても、来園客が行列でずっと同じ場所に拘束されるより、アトラクションやショーを待つ間に園内を歩き回って飲食施設の利用や買い物をしてくれたほうが売上アップにつながる。オリエンタルランドの前年度決算の純利益は過去最高となっており、経営的には成功を収めています。いくら複雑化している、高額化しているといっても、多くの客が来ているわけなので、現在の方向性が変わることは当面ないでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=中島恵/明治大学兼任講師)