静岡に本社を置く物流会社・鈴与ホールディングス(HD)が航空会社スカイマークの筆頭株主におどり出ることがわかり、航空業界に驚きが広がっている。鈴与HDは一般的な知名度はそれほど高くないが、グループ年間売上高は4920億円、グループ会社数約140社、従業員数1万2800名を誇る、静岡では知らない人はいない大企業だ。なぜ物流を主な事業とする鈴与HDが航空会社であるスカイマークの株を大量に取得し筆頭株主となるのか。また、鈴与グループ会社である航空会社フジドリームエアラインズ(FDA)は日本航空(JAL)とコードシェアをしており、スカイマークの大株主にはANAホールディングス(ANAHD)が名を連ねているが、今回の鈴与HDの動きが航空業界に大きな変化をもたらすのか。業界関係者の見解を交え追ってみたい。
スカイマークは業績悪化により2015年に民事再生法の適用を申請し、事実上の経営破綻。上場廃止となり、投資ファンド・インテグラルの支援の下で経営再建を行ってきたが、22年12月に東証グロース市場へ再上場。今回、大株主順位1位であるインテグラルの関連ファンドなどは、保有する普通株式計785万株を相対取引で鈴与HDに譲渡する(譲渡期日は14日)。これにより、インテグラル関連ファンドの大株主順位は第5位となり、議決権比率は16.58%から4.86%に低下。一方、鈴与HDが筆頭株主(議決権比率は13.01%)となり、ANAHDは第2位(同10.53%)となる。
この鈴与HDとはどのような企業なのか。創業は1801年(享和元年)で220年以上の歴史を誇り、中核企業・鈴与の2022年8月期の売上高は1477億円、経常利益は87億円。鈴与グループ全体としては国内・国際・港湾物流をメインとし、物流情報サービス事業、データソリューション事業、リース事業などを幅広く展開。国内に141拠点、海外13カ国に22拠点を構え海外にも積極的に展開している。本社は現在も静岡県静岡市の清水区に置き、「静岡の地方財閥」として地元では大きな存在感を持つ。
「地元ではクジラが泳ぐ映像にグループ会社の一覧が流れるCMや、Jリーグの清水エスパルスの運営会社を持つことなどで知られているが、個人的には鈴与に関してそれくらいの情報しか知らない。ネット上では『静岡のドン』『静岡を支配している』といった声もあるようだが、あまりピンとこない」(静岡県出身の男性)
「安定した物流事業を軸に、近年では太陽光発電やデータソリューションなど新たな領域にも進出し、売上・利益ともに増収・増益トレンドを維持しており、経営的には堅実という印象」(金融業界関係者)
同社は以前から航空事業にも乗り出している。2008年にFDAを設立し、主に静岡空港や名古屋空港などを拠点として地方路線を運営しているが、同社は赤字が続いており、鈴与は22年8月期決算でFDAの減損損失などを特別損失として計上している。
「スカイマークは直近の23年3月期決算で最終黒字に転換し、コロナ禍が明けたことによる旅行需要回復の追い風に乗り今年度も増収増益の見込み。そのため、鈴与HDとしては将来的にはFDAを救済する意味合いでスカイマークと統合・合併させるのではないかという見方も出ている。ただ、スカイマークの大株主にはANAグループがおり、スカイマークの過去の歴史から『ANAグループの一員』というカラーが強く、JALとコードシェアしているFDAとの連携はハードルが高い。確かにスカイマークとFDAは就航路線にカブリがないため、鈴与HDは両社のコードシェアなどで相乗効果を出したいところだろうが、ANAHDが難色を示せば一筋縄にはいかないだろう。
長きにわたりJALとANAの寡占状態が続き、国交省の強い管理下にある航空業界はかなり特殊なこともあり、過去にベンチャー的に新規参入した『第三極』の航空会社はいずれも経営的に苦戦を強いられており、小規模な企業が安定的に利益を出していくのは非常に難しい。それだけに、畑違いの鈴与のような企業が非中核事業として航空事業に手を出すというのは、ややリスキーな気がする」(航空業界関係者)
(文=Business Journal編集部)