国立科学博物館(東京・上野)が国内クラウドファンディングとしては最高支援額の約9.2億円を集めたことが話題を呼んでいる。標本・資料の収集・保管の費用を調達するためにクラウドファンディングのプラットフォーム「READY FOR」を通じて支援を募り、最終的な調達額は当初目標の1億円を大きく上回るかたちとなったが、「READY FOR」に徴収される手数料が1億円を超えるとみられることが議論を呼んでいる。SNS上には
<中抜き構造>
<文化が苦境に立たされるほど、クラファンの会社が儲かる>
<手数料えげつない>
<10パー以上持ってかれるの?>
<これなら、純粋に寄付でよいのでは?>
<クラファン以外で人々から8億円を集める手段はない>
<兎にも角にも科博は8億を手にした。クラファンが1億手にしたけどそれ以上の価値を提供してる>
<クラファンも広告宣伝費使ってんだから利益もらわんと。皆にわかってもらうのがクラファンの仕組み>
<手間と緊急性を考えると金額自体は妥当>
など、さまざまな声が寄せられている。「手数料1億円」は妥当といえるのか、そして国立の文化・研究施設がクラウドファンディングで資金を募るという行為をどうとらえるべきか。
国立科学博物館は「地球や生命の歴史と現在、科学技術の歴史」を研究する、国立としては日本で唯一の総合科学博物館で、動物、植物、菌類、鉱物、化石、人骨、科学・技術史資料などの標本・資料の収集を行っており、その数は500万点以上に上る。保有する標本・資料の約99%は茨城県つくば市にある収蔵庫に保管されているが、広大な収蔵庫の空調設備や標本整理などに要する維持・管理コストには多額の費用がかかる。コロナ禍による入館料収入の減少や、物価高による保管容器や保存液、光熱費の高騰などで資金難となり、クラウドファンディングに乗り出した。
この取り組みは大きな反響を呼び、結果的には目標額を大きく上回る9.2億円の支援額を達成。国立科学博物館はこのうち間接経費(返礼品、手数料、事務費等)として約3.2億円を支出し、残りの6億円を本来の事業経費であるコレクションの充実・管理などに充当する。
そうしたなかで一部でクローズアップされているのが、プラットフォーム「READY FOR」に徴収される手数料だ。「READY FOR」ではプロジェクトを掲載した組織・人が達成した合計支援額の12%(シンプルプラン)、もしくは17%(フルサポートプラン)が手数料として徴収される仕組みとなっており、今回科学博物館が前者を利用していた場合は約1.1億円、後者の場合は約1.6億円の手数料がかかる計算となる。ちなみにプロジェクトの掲載には費用はかからず、プロジェクトが不成立となった場合には手数料は発生しない。
「寄付文化が薄い日本で、もし仮に科学博物館が独自で寄付を募る活動をしたとして、9億円もの資金を集めることは困難だろう。いくら手数料が高額とはいえ、クラファンだからこそ、これだけの額のお金を集めることができたのだから、何ら問題はない。科学博物館がこれから1億円を返済していかなければならないというわけでもないし、ノーリスクで資金を集めることができたのだから、科学博物館に『1億円も中抜きされた』という感覚はないだろう。優れたサービスを始めた事業者が先行者利益を得ることは、ビジネスの世界では当たり前だ。
とはいえ、手数料1億円というのは、高すぎるという批判を招いても仕方ない。手数料が約1割として、集まった支援金が100万円なら手数料は10万円、1000万円なら同100万円となり、これだと納得感はある。今回は9億円なので比例して手数料も高額となったわけだが、合計支援金に段階を設けて手数料のパーセンテージを変えるなり、上限を設けたりといったプライシングは検討の余地があるのでは」(金融業界関係者)
クラウドファンディングというサービスが存在したがゆえに、科学博物館が資金を調達することができたというのは紛れもない事実だ。その一方、「国立の文化・研究施設の資金難に乗じてクラファン運営会社が1億円を中抜きしている」「純粋な寄付であれば、支援者が提供した資金のほぼ満額を科学博物館が運営に充当できる」といった声もあがっている。このようなサービスは、ビジネスモデルとしてどのように評価すべきか、議論が分かれるところだろう。
(文=Business Journal編集部)