トヨタ工場従業員、時給5205円へ引き上げでも「高くない」といえる理由

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トヨタ自動車の本社(「Wikipedia」より)

 米国メディア「auto dealer TODAY」の報道によると、トヨタ自動車が米国工場の自動車組み立てに従事する時間給従業員の時給を31.86ドル(約4765円)から34.80ドル(約5205円)に引き上げる。日本のファストフードチェーンのアルバイト時給を仮に1100円とした場合、その5時間分をトヨタ米国工場では1時間で稼げる計算となるが、なぜこれほど高騰しているのか。もしくは、米国の賃金相場を踏まえると、それほど突出した高さではないのか。専門家の見解も交え検証してみたい。

「auto dealer」によれば、トヨタはスペアパーツ工場や物流倉庫の従業員の時給も引き上げる。また、時間給従業員が最高時給に到達するまでに要する期間について、これまでの8年から4年に短縮するという。

 一方、日本のトヨタ工場をみてみると、期間従業員の基本日給(1年目)は1万100~1万900円であり、実働時間は7時間35分のため、時給に換算すると1332~1438円ほど。日本のトヨタの期間従業員は入社お祝い金(60万円/11月6日時点、以下同)や6カ月ごとの満了慰労金・報奨金(初めの6カ月は39万4000円)の支給などがあり、独身寮の寮費が無料となっているなど、米国との比較は難しいが、単純に時給金額だけを比較すれば米国は日本の約3~4倍ということになる。

 中堅IT企業の経営者はいう。

「日本の大学でAIの研究をしていた大学院生が新卒で米国の大手テック企業本社に採用されたが、初年度の年報酬は1000万円だと言っていた。米国企業は必要な人材には高額の報酬を惜しまない代わりに、不要となればすぐにレイオフする。ただ、円安のため米国は円でみると物価も住宅費も非常に高く、医療費もべらぼうに高い。米国での『年収1000万円』というのは、日本人が抱く感覚とは随分違うだろう」

円安は日本企業の競争力を弱める

「セミコンポータル」編集長兼「newsandchips.com」編集長を務める国際技術ジャーナリストの津田建二氏はいう。

「『auto dealer』記事に書いてあるとおり、全米自動車労働組合(UAW)に加盟するゼネラルモーターズやフォードはすでに賃上げに合意しており、UAWに加盟していないトヨタもそれに追随したということ。米国サンフランシスコのベイエリアでは『年収1200万円以下は下層階級』といわれるほど、米国では特にIT企業の年収が上がっている。現在は超円安のため、円換算でみると米国の時給は非常に高くなる。トヨタの時給も仮に1ドル100円で換算すると3100~3400円ほどで、それでも高いことは高いが、正社員の給与水準を考えれば『ものすごく高い』というほどでもないだろう」

 円安の進行により、海外からみると日本企業の給料は相対的に低くなり、これはグローバル規模での人材争奪戦で日本企業にとって不利に働くが、津田氏はいう。

「円安の恩恵を被るのは一部の輸出大企業のみで、その他の多くの中小企業や消費者はデメリットのほうが大きい。例えば海外から原材料を仕入れて加工品を日本の企業に売っている中小企業は、顧客企業が容易に値上げを容認してくれないため、円安で仕入れコストが上がった分だけ損をする。過去を振り返ってみると、1985年のプラザ合意を受け円高が進行し、直後に日本の半導体産業は世界トップに躍り出た。このように円高は日本企業の競争力を高め、逆に円安は競争力を弱めるので、まずは現在の過度な円安をなんとか解消する必要がある」

(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)