山口氏はいう。
「元のバージョンに切り戻すタイミングとしては、10日朝の不具合発覚時と10日夜間の改修失敗時の少なくとも2回あったはずですが、いずれも改修の続行が最もリスクが低いとの判断を下しています。こういった場合、現場レベルでは問題の切り分けと対策が確立していたとしても、トップ判断で切り戻しを決断してもおかしくない状況といえます。結果的にはうまくいったものの、失敗時の想定が不十分だったために危ない橋を渡ることになった印象を受けます。報告書などで説明を求められることは必至でしょう」
今回の障害をめぐっては、全銀ネット側の対応にも疑問が出ている。障害が発生した10日、全銀ネットは「バックアップ手段を用いて、受付済の取引については、本日中の着金を予定している」と発表。その後、これを取り消し、「現在、バックアップ手段を用いて、振込取引の処理を実施している」と訂正。「バックアップによって、本日受け付けたものの作業を進めているが、量が多くて本日中に対応しきれるかの見通しが立たなくなった。そのため正確な表記に改めた」と釈明したが、結果的に復旧は12日にずれ込んだ。
「全銀ネットは国内の銀行が加盟する業界団体、全国銀行協会の下部組織みたいなもので、要は寄り合い所帯。システムに精通する人材も多いとは思えず、事実上NTTデータに丸投げ状態だったとみられる。リレーコンピュータの更新作業にあたっては、NTTデータは各銀行のシステム部門と調整する必要があり、『かなり面倒なプロジェクト』であることは想像できるが、これだけ大掛かりなプロジェクトともなれば、NTTデータと全銀ネット、関係する各銀行の担当者はプロマネレベルの責任者を交えて、各作業の手順やスケジュール、コンティンジェンシープランについて入念な事前レビューをしているはず。にもかかわらず、なぜ2日も止まる障害が起きたのかは気になるところ。
みずほ銀行の再三にわたる大規模システム障害の教訓を生かし、大手金融機関では何度も作業のやり直しが発生することを前提としてバッファを持たせた全体スケジュールを組むようにしており、全体のスケジュール策定が適切だったのかも検証が必要だろう。現時点でも真因が不明ということだが、全銀ネット側にプロジェクトを統括して推進していく能力があるのかは疑問で、今後のスケジュールが大幅に遅れる懸念もあるのでは」(大手ベンダSE)
影響がおよんだ10の金融機関は、三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、三菱UFJ信託銀行、日本カストディ銀行、もみじ銀行、商工組合中央金庫。
(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)