インドの人たちからすると、日本人の曖昧な話し方はとにかくわかりづらいのかもしれない。
「インドの人たちからすれば、日本人は何を考えているかわからないと感じることが多いでしょう。日本人は相手に忖度したり、気遣ったりして、意図や考えがわからないような発言をしがちなので、日本的なコンテクスト文化を共有していないと、うまくコミュニケーションを図ることができませんからね。また日本人からすれば、物事をはっきりと述べる文化には違和感を覚えることもあるはず。おそらく相手は『はっきり言ったほうがいい』と思って発言しているのですが、このやり方に慣れていない日本人は精神的に苦痛と感じてしまうこともあるでしょう」(同)
コミュニケーションでコンフリクト(対立、衝突)が発生しやすい一方、外国人が上司になるメリットももちろんあるそうだ。
「ダメなところは単刀直入に指摘してくれるので、自分の短所を即座に理解でき、生産性が上がるというメリットが考えられます。フィードバックをするときもグサグサとダメ出しし、修正点を指示するため、改善するまでの時間が短くてすみ、効率的に仕事ができるでしょう。ほかにも、能動的に動く姿勢を学べるようになるのではないでしょうか。日本人は上から任された業務には、丁寧に取り組む傾向にありますが、自ら仕事を創造することは苦手な人が多いといわれます。しかし外国人上司と接していると自分の考えをはっきりと伝える機会が多くなりますので、積極的な言動や思考が身に付きやすいんです」(同)
千葉氏いわく、国問わず、外国人上司はストレートな物言いをしてくるケースが多いので、こちらもストレートな物言いで返したほうがいいそうだ。ただ個別の国ごとにも文化的背景の違いはあるので、その国に合わせたコミュニケーションのカスタマイズも必要になってくるという。
それはインド人の場合も例外ではない。
「インド人は、根底に『ジュガード精神』と呼ばれる思想が根付いています。これはトラブルや問題に対して、今ある資源やアイデアを用いて、解決を図っていこうとする考え方。インド人の考え方風に言うならば、『目の前で起こったトラブルや問題は、目の前にあるものを使って何とか乗り越えろ』ですね。そしてインド人の多くは、どうせ途中で変更されるのであれば、最初から綿密に計画を立てても意味はないと考えます。結果さえ良ければ必ずしもプロセスは重視しないんです。成果物も完璧な状態ではなく、5割ぐらいのクオリティーで提出し、後々修正していけばよいというスタンスが主流です。
またインド人は『しゃべってなんぼ』の文化で育ってきています。自分の意見をよく主張し、相手にも同じだけの発言量を求める傾向にあるので、日本のように『はい、はい』と受け身で返事しているだけでは上司から信頼されません。会話を広げて、相手との共通項を確認することが大切なので、日本的な『一を聞いて十を知る』会話では、インド人とはうまく付き合っていけないでしょう」(同)
外国人の働き方に刺激を受ければ、我々日本人の働き方も変わってくるに違いない。とりわけ成果主義に基づく働き方の定着は、期待できそうだと千葉氏は語る。
「日本人は『彼は結果が出ていないけどがんばっている』という、浪花節的な義理人情で人を評価することが好みですよね。反対に外国人が上司になると、成果主義に基づき、定量的なデータを用いて評価する傾向にあるので、個々人の成長にはつながるでしょう。ただ冒頭でも説明したように日本自体が外国人ワーカーにとってそれほど魅力のある国ではなくなってきていることは事実。高度人材を呼び込んで働き方を改革していくためには、もっと賃金を上げるなどして魅力的な労働市場を作り上げることが必要になるでしょう」(同)
(取材・文=A4studio、協力=千葉祐大/キャリアマネジメント研究所 代表理事)