オリーブですべての金融サービスが行えるようになると、銀行の窓口に足を運ぶこともなくなり、実店舗の必要性が薄くなる。三井住友銀行はオリーブの発表と共に、現在約450店舗ある実店舗のうち6割を新しい形態の「ストア」に切り替える計画を発表している。
「実店舗の形態を変えることは、大幅なコスト減になります。いままで銀行リテールの3種の神器といえば、立地、人材、そして現金でした。この3つがしっかり管理されていることが理想だったんです。しかし、これからは立地は駅前である必要はない。窓口業務をする人材もいらなくなる。そして、現金をやりとりする必要がない。これは大きいです。銀行は現金を安全に管理、流通するために莫大なコストをかけています。その必要がほぼなくなるということは、まさに革命的です」(同)
ネット銀行は実店舗を持たないことでコストを下げ、その分を金利や手数料の優遇などに充てることで支持を集めてきた。しかし、三井住友銀行とオリーブが目指すのは、完全デジタル化ではなく、ネットとリアルのハイブリッド戦略だという。
「店舗やストアなどのリアルな接触ポイントがあることをアドバンテージにしていく戦略だと思います。現状でも銀行のリテールは、窓口で手続き業務をするよりも、さまざまなお金の相談に乗る場所という側面が強くなっていました。オリーブの普及が進むことで、その方向性はさらに強まり、店舗ではアプリの使い方を教えたり、金融の話をするサロンのような形態になると思います」(同)
近年の携帯ショップは、手続きのデジタル化を進めた結果、窓口業務は少なくなり、新製品の紹介をしたり、高齢者向けの「スマホ教室」を行う場所となっている。銀行の実店舗も、やがてそうなっていく可能性が大きい。しかし、この方向性はオリーブをリリースした三井住友銀行に限った話。三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループでは、こうした取り組みはまだまだ遅れているという。
「みずほグループはもちろん、三菱UFJでも、現状ではオリーブのようなアプリは開発できないと思います。システム開発が容易ではないこともあり、関係各社と提携して実用化するのに10年はかかる。その間にオリーブは先行利益をとって、さらに進化すると思います。これは一種のプラットホームビジネスですから、先にシェアを取ってしまったほうが強い。オリーブがある程度普及してから、さらにどんなサービスを乗せていくかというのも今後の流れとしては非常に重要だと思います」(同)
その機能と革命性を考えると、その評価はまだこれからといえる「オリーブ」。銀行の未来像を先取りしたフルモバイルサービスは、さまざまな業界に影響を与える可能性を秘めている。
(文=清談社、協力=浪川攻/金融ジャーナリスト)