欧米と中国では、政府がガソリン車を避けて電気自動車(EV)を積極的に普及させてきた。8月28日の米国株式市場では、ベトナムの新興EVメーカー、ビンファストの時価総額が日本円で一時、約28兆円に達し、自動車メーカーとしてはテスラとトヨタ自動車に次ぐ世界第3位になったと報じられた。しかし、人間経済科学研究所の執行パートナーで国際投資アナリストの大原浩氏はEVバブルにすぎないといい、それも崩壊しつつあると断じる。同氏に話を聞いた。
――EUは3月末、2035年にガソリンエンジンの新車販売全面禁止という方針を変更し、環境に良い合成燃料を使うエンジン車は認めると表明した。EV一辺倒だったEUの政策が大きく転換したことになる。EVバブル崩壊が始まったと考えるべきか。
大原浩(以下、大原) EVバブルというか、EVイリュージョン(幻想)だった。EVが環境に良いというのが嘘だったと皆がわかってきた。製造から廃棄までの全体を比べると、二酸化炭素(CO2)排出量はガソリン車よりEVのほうが多いとされる。京大も研究成果を出している。製造するときにEVはガソリン車よりも炭素を多く使うと言われるし、廃棄するときもリチウムイオン電池は危険廃棄物なので環境に悪い。自動車は数年で乗り換える人も少なくないが、EVは中古車になったときに価格がかなり下落する。スマホでもわかるように、電池の劣化が激しいからだ。電池の状態がよくわからないようなEV中古車には誰も乗りたがらない。そうかといって、電池交換は高くてできない。
EVが環境に良いと言っている人は、電気で走るからCO2を出さないという理屈だ。しかし、その充電する電気は、世界的に7割くらいが化石燃料による火力発電と原子力発電によるものだ。いわゆるクリーンエネルギーはせいぜい3割程度。だから、電気を使って走っても、電気を作るときにCO2を出しているのでまったく意味がない。
EVの車体はガソリン車よりかなり重く、これも環境に悪い。重いと道路が痛んで粉塵が飛ぶ。よくトラックが通ると道路が傷むといわれるが、同じことだ。道路に与えるダメージは、国土交通省の発表によると、高速道路の場合、最大で軸重の12乗に比例。重さが2倍であれば、なんと4096倍も負担が大きくなる計算だ。それから、EVのほうが、事故が起きたときに大きな事故になりやすい。これもアメリカ政府やさまざまなところから研究報告が出ている。
――例えば、東京都では新築住宅への太陽光パネル設置義務化条例で太陽光発電を推進している。ソーラーパネルで発電したものを直接EVに充電するならOKでは。
大原 電力供給網のマクロで見ると、太陽光発電というのは、晴れの日しか発電しないので使い物にならない。マクロでは太陽光由来の電気をほとんど捨てている。現実的に、そんな電気ばかり増えたら停電が毎日起こる可能性が高くなる。もしあり得るとすれば、現在開発中でトラックの荷台に積めるほどの大きさの超小型原子力発電を普及させて、そこからEVに充電することだ。小型原子炉は万一の際の冷却が簡単だといわれる。要するに、化石燃料と同じように常時発電できる原子力が普及すればあり得るが、再生可能エネルギーだけでは無理だ。太陽光パネルで自動車を動かすとか家庭の電力を賄うというのは良いことだが、全世界的な電力供給で考えたら、化石燃料か原子力のどちらかしかありえない。
――日本では2035年までに自動車の電動化100%を進めるとしており、2050年にカーボンニュートラルを達成すると宣言している。どちらもまだ先の話であり、マクロの発電方式でいえば、水素やアンモニアなど開発中の再生可能エネルギーもある。