東急電鉄は8月30日、新たなデジタル乗車券サービス「Q SKIP」を開始した。1日券などをスマートフォン上で購入できるサービスで、切符やPASMOなどの代わりとして、スマホ上に表示されるQRコード乗車券やタッチ決済対応のクレジットカードを使って改札を通過できる。
実はこのサービスについて東急は昨年12月、首都圏鉄道初「クレジットカードのタッチ決済」を活用した乗車券サービスに関する実証実験を2023年夏より開始すると予告していた。つまり、その実験が始まったわけだ。
だが、現在のところクレジットカード利用はSuicaやPASMOのように後払い決済ができないため、通過認証のみとなっている。事前にスマホなどで乗車区間分を購入しなければならず、現状では使い勝手は良くない。自動チャージができるモバイルSuicaなどに比べると、利用者にとってメリットはなさそうに見えるが、なぜQ SKIPを導入したのだろうか。東急の思惑などを鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に聞いた。
「Q SKIPについては、Suicaを運営しないJR東日本以外の鉄道会社にとっては非常に大きなメリットがあると考えています。以下に箇条書きで、その理由を申し上げます。
(1)すべてのQ SKIPがクレジットカードによるチャージであるため、駅に交通系ICカードをチャージするための自動券売機を置く必要がなくなる。
(2)規格が独自で、しかも開発時期が古いためにチャージ金額の上限が2万円と少なくて将来性に難があり、JR東日本への一定額の手数料(金額は不明)を負担しなければならない交通系ICから決別できること。
(3)Q SKIPはVisa、Master、JCBのクレジットカード会社提案の規格であるので、現状では駅に対応済み自動改札機を設置する導入費用はクレジット会社負担、手数料も一定期間は(恐らく)減免または無料と非常に有利である点。
以上のことから、他社でも導入は進むと考えます。すでに南海電気鉄道、福岡市交通局などではクレジットカードのタッチで改札を通過可能となっています」
現状は実証実験ということであるが、事前購入することなくクレジットカードで改札を通過できるようになれば、確かにぐっと利便性は高まる。そもそも「チャージ」という考え方すら不要になるからだ。
まだ利用できる範囲は限定的で、利便性も高いとはいいがたいが、広範囲でサービスが行われるようになれば、一気に普及する可能性もある。20年以上交通の決済を担ってきたSuicaが、Q SKIPの規格に取って代わられる日も近いのかもしれない。
(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)