「年収の高低を考えるうえで重要なポイントとなるのは、転職求人倍率です。求人倍率が高いのは人気の高い業界・業種ということになりますが、それはつまり、仕事内容に対して給与などの条件面で満足できると考えている人が多いということ。逆に求人倍率が低いのは、不人気でその給与などの条件で納得できる人が多くないということです。
転職サイト『doda』にある7月の転職求人倍率を見ますと『人材サービス』『コンサルティング』『IT・通信』がそれぞれ6倍を超えており、人気の高さがうかがえます。しかも、高いスキルや専門性が必要な業種だとすると、応募してくる人材は市場価値が高めにもかかわらず、そのなかから6人に1人しか採用されないということですから、こういった業界の企業の年収は高い傾向にあるといえるでしょう。
一方、『レジャー・外食』『小売・流通』といった業界は求人倍率が1を切っており、人気は低い。どちらも肉体労働という側面が強く、さほど高いスキルや専門性を必要としない業界ですので、市場価値が低い人でも求人要項の条件を満たしているケースは多い。わかりやすくいうと、誰にでも広く門戸を開いている業界というわけです。にもかかわらず転職求人倍率が1以下ということは、条件面で納得する人が多くないということであり、年収が低い傾向にあると考えられます」(同)
求める人材の市場価値が低く、求人倍率も低いという負のスパイラルに陥っている業界では、賃金の上昇が見込めないのは自明の理。
「特に飲食業のような安い労働力を頼りにしているような業界ですと、よりいっそう厳しいでしょう。昨今では国による外国人労働者の雇用推進により、低賃金で外国人をどんどん採用しているので、業界全体で賃金が上がらない状況が続くと予想されます。また、飲食業界は人件費のコストカットにも積極的に乗り出しており、たとえば注文をタッチパネル化したり配膳ロボットを導入したりと、省人化を進めてなんとか利益率を上げていこうという流れがあります。こういった背景を考えると、飲食業界の賃金が今後、劇的に上がっていくということは考えづらいのです」(同)
(取材・文=A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表)