そのほか、最近では、全館空調システムによって、いっそう断熱性を高めた住宅も増えています。ますます価格アップ要因となります。いまひとつ、地震大国日本では、耐震性の強化も重要なテーマです。壁を厚くしたり、集成材を用いたりして、構造躯体の強化を図る一方、制震装置と呼ばれる、地震の揺れを吸収する装置を設置する注文住宅が増えています。
さらに、台風や豪雨被害の増加への対応も欠かせません。暴風に負けない強固な建物にし、屋根やバルコニーなどが飛ばされないような建物でなければなりません。さまざまな面でコストアップ要因が重なっています。
それに対して、消費者も価格の上昇をある程度容認するようになっているといわれています。収入アップがなかなか難しく、かつ物価上昇が続く時代ですから、消費者の生活は決してラクではありませんが、それでも、安全・安心や地球環境に貢献するためであれば、多少のコスト負担は致し方なしという社会的なコンセンサスが形成されつつあるのではないでしょうか。
国や自治体も基本性能の高い住宅の建設・販売を促進する施策を徹底しています。たとえば、2025年度からはすべての新築住宅には省エネ基準への適合が求められるようになります。つまり、省エネ性能の高い住宅でないと、新築できない時代がそこまでやってきているのです。それに先立って、2023年度からは省エネ性能の高い住宅でなければ、全期間固定金利型の住宅ローンとしては比較的低金利のフラット35を利用できなくなっていますし、2024年からは省エネ性能の高い住宅でないと住宅ローン減税の適用を受けられなくなります。
大手住宅メーカーでは、省エネ基準への対応は標準仕様でクリアしていますが、中小の工務店などでは対応が難しい面があるので、国土交通省や自治体では各種の補助金制度や支援策を実施して、すべての事業者が対応できるようにしようとしています。
周知のように、注文住宅といっても、積水ハウスを初めとする大手住宅メーカーと、ローコストを売り物とする中堅ビルダー、職人が数人の中小工務店では価格帯が大きく異なっています。大手メーカーでは、冒頭に触れた積水ハウスは、1棟単価5000万円が目前に迫っていますし、他社も4000万円台が多くなっています。たとえば、最大手の大和ハウス工業の2022年度の1棟単価の平均は4510万円ですし、住友林業は4320万円です。しかも、前年度比をみると大和ハウス工業は10.0%、住友林業は4.0%のアップとなっていますから、今後も両社ともに5000万円に向けて単価の引上げが行われる可能性が高いのではないでしょうか。
積水ハウスの決算は1月です。多くのメーカーは3月決算ですから、積水ハウスの動向は先行指標的として位置づけられており、価格面でも積水ハウスの動きに続くメーカーが多くなるのではないでしょうか。それに対して、中堅ビルダーと呼ばれる、薄利多売でローコストを売り物にする中堅ビルダーの注文住宅は2000万円前後が中心で、町場の中小工務店では2000万円以下、1000万円台で受注するケースも少なくありません。
中堅ビルダーでは、大手住宅メーカーの技術力をキャッチアップ、1棟単価2000万円前後でも、基本性能の高い住まいを供給できるようになっていますが、中小の工務店のなかには省エネ基準に対応できないところも出てくるかもしれません。いわゆる一人親方の大工さんの工務店の多くが高齢化していることもあって、事業の継続が難しく、廃業するケースも多くなる可能性があります。また、求められる住宅の基本性能が高くなっていくため、単独では事業を継続できなくなり、中堅ビルダーや大手住宅メーカーの下請けになるケースも増えるのではないかという見方もあります。
そうなると、町場の工務店が減少して、消費者としては注文住宅の依頼先としては大手住宅メーカーか中堅ビルダーしかなくなってしまうかもしれません。これからは、5000万円を覚悟して、先進技術が搭載された大手住宅メーカーで注文住宅を建てるか、ブランドにこだわらずに、ローコスト住宅を売り物にするビルダーに依頼するか、二者択一の時代になりそうです。注文住宅の建設を考えている人は、その点を頭に入れて検討を進める必要がありそうです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)