前記の通りヨドバシは池袋・千葉・渋谷への出店を目指しており、今回の売却劇で注目された西武池袋本店に関しては店舗面積の半分がヨドバシ、もう半分が百貨店になると見られる。やはり池袋の駅前一等地はヨドバシにとって魅力的だったのだろうか。
「駅前百貨店が家電量販店になる例は過去にもいくつか見られます。そごう有楽町店はビックカメラになり、かつての三越池袋店もヤマダ電機に生まれ変わりました。やはり旧百貨店跡地は家電量販店にとって儲かる場所のようです。ヨドバシも駅前一等地が欲しいということで西武池袋本店を狙ったのでしょう」(同)
過去の例を調べてみると、百貨店から家電量販店への転換は他にもいくつかみられる。三越横浜店や三越吉祥寺店はいずれもヨドバシカメラに変わり、三越新宿店はビックカメラとなっている。地方では札幌そごうがビックカメラとなり、近鉄百貨店京都店はヨドバシカメラへと生まれ変わっている。特にヨドバシは郊外店を置かず、駅前立地に特化した家電量販店として知られる。
池袋の駅前一等地に出店するヨドバシも成功することだろう。だが、ヨドバシを誘致せずに百貨店で成功させる別のシナリオはなかったのだろうか。
「現在の百貨店事業で伸びている客層は(1)インバウンドと(2)富裕層の2つです。そして、この2つの客層を取り込むには語学力や営業力、人脈など従業員の『個』の力が必要となります。しかしフォートレスが実施しようとしている方針は百貨店面積や従業員の縮小であり、従業員個人の力を伸ばすのとは逆の流れといえます。そう考えるとフォートレス傘下での百貨店事業はあまり期待できないかもしれません」(同)
鈴木氏の言うように従業員個人のレベルを重視し、インバウンドや富裕層にターゲットを絞れば百貨店事業単体として業績を伸ばせたかもしれない。だがフォートレスはヨドバシを主軸としており、富裕層ではなく一般層をターゲットとしているようだ。池袋店に関してはヨドバシと同じフロアへの出店に海外ブランド店が難色を示しているとの報道もあり、特に富裕層が離れてしまう可能性もある。
今回の売却劇をまとめると、そごう・西武の経営権がフォートレスへと移り、百貨店がもつ不動産の一部がヨドバシへと移ったかたちだ。セブン&アイHDは経営難の百貨店事業を売却したいという思惑があり、ヨドバシには駅前一等地が欲しいという思惑があった。両者の思惑を利用してフォートレスが儲かった構図といえる。米投資会社に翻弄されるそごう・西武の姿を見ると残念な気持ちも否めない。
(文=山口伸/ライター、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)