この取り組みの是非については、財務省側の思惑も、業者側の反発意見も、どちらも一理あるという。
「確かに財源があるなら、それを待遇改善に充当しろという財務省の言っていることもわかります。対して、介護業者の内部留保は、施設が古くなった時の修繕や建て替え費として備えているものだったりするので、それを給与に充てるのは難しいという部分もあります」(同)
介護業界では新規の人材不足に加え、現在働いている人たちの離職率も高くなってきている。
「介護の仕事をしている人たちも高齢化しており、ホームヘルパーの4人に1人が65歳以上といわれています。この世代になると職業に関わらず、自分の親の介護のために離職するというケースが続出しているので、今後の就業人数の維持も難しくなってくると思います」(同)
介護業界の構造的かつ慢性的な人手不足に特効薬は無く、一朝一夕に解決する問題ではない。
「介護ロボットの導入というのも進められていますが、職員が高齢化している中で対応できる人材がどれぐらいいるのかという問題もあります。介護業者どうしが合併して大規模化したり、求人や人材育成を複数の事業所が合同で行うなどの体制づくりを行うというのも対策のひとつですが、こうした取り組みが地域による介護資源の偏りを生まないかという課題もあります」(同)
賃金問題だけでなく、介護業界の構造ごと変えていかないと、遠くない将来に破綻してしまう可能性もあるのだ。
「個人的には、介護業界のイメージアップをすることも大事だと思います。ある高校生が、卒業後の進路に介護業界を希望していたけれども、家族や親戚一同に止められたというケースがありました。現状では、介護は“キツくて稼げない”という印象が強い。賃金を上げるなどの改革と同時に、学生たちに対しても、介護という仕事の社会の中での位置づけを見直してもらい、やりがいのある仕事だと教えていくことが必要だと思います」(同)
介護は、社会の中で必ず誰かが担わなくてはならないサービス。その価値を改めて考え直し、認知していくことから始めていくべきだろう。
(文=清談社、協力=田中元/介護福祉ジャーナリスト)