単身でマンションやアパートなどの賃貸住宅に住むより、ビジネスホテルの長期滞在プランを利用してホテル住まいをしたほうが経済的で生活もラクになるというという理由で、後者を選択する人も少なくない。確かにビジネスホテルのなかには家具・家電、アメニティ、Wi-Fiが無料で使用でき、自身での部屋清掃も不要で光熱費もかからず、コーヒー飲み放題で朝食も無料で食べられ、さらに大浴場も備えられているという至れり尽くせりのところもあり、セキュリティ面も安心といえる。果たして一般的な単身者にとって「ビジネスホテル住まい」は現実的な選択肢といえるのか。
たとえば東京23区でそれなりに築浅・駅近でバス・トイレ別の物件であれば、単身用のワンルームマンションでも家賃8~9万円台となることは珍しくなく、これに敷金・礼金、月々の管理費、光熱費、インターネット回線費用などが上乗せされ、これだけで月の出費が10万円を超えることはザラだ。また、日々の部屋の掃除や決められた日のゴミ出しなども自身で行わなければならない。
そこで代替案として浮上するのが、ビジネスホテルの長期滞在プランだ。例として大手ビジネスホテルチェーンのプランを確認してみると、以下のようになっており、トータルの月額生活コストでみると都内でワンルームの賃貸住宅に住むのと、ほぼ同等になる可能性はあるだろう。
※以下、料金は1名利用時・税込み、サービス内容や料金は施設・時期によって異なる。
●スーパーホテル「マンスリープラン」:12万円~/30連泊
朝食・Wi-Fi無料、天然温泉・大浴場あり、リネン交換・客室清掃、防音客室
●アパホテル「マンスリープラン」:11万7000円~/30連泊
Wi-Fi・有線LAN無料、天然温泉・大浴場あり、リネン交換・客室清掃、アパルームシアター(VOD)視聴が完全無料
●東横イン「マンスリープラン」:通常料金より最大15%オフ/30~31連泊
7泊ごとに部屋移動、リネン交換・客室清掃 ※詳細はプランによる
●スマイルホテル「連泊マンスリープラン」:12万円~/30連泊
LAN無料、リネン交換・客室清掃、VOD視聴無料
もちろんタオル類やアメニティは適宜交換され、ゴミ捨てもスタッフが対応。ホテルによっては施設内にコインランドリーを設けているところもあり、特に仕事が忙しく家の雑事に時間を割く暇がない人のなかには、賃貸住宅に住むよりもホテルの長期滞在プランを利用したほうがよいと考える人は一定数いるだろう。
ちなみに自身で住宅を賃貸契約・購入せずに長期滞在する手段としてはウィークリーマンションがあるが、一日3000円程度のものからシティホテル並みのものまで料金はまちまち。家電・家具は一通りそろっているケースが多いものの、掃除やゴミ出しは自身で行う必要がある一方、自室で料理や洗濯ができる点をメリットと感じる利用者はいるだろう。
では、実際のところ「ビジネスホテルに住む」という選択肢はありといえるのか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏はいう。
「私は仕事柄、日々さまざまなホテルや旅館に宿泊していますが、『ビジネスホテルに住むというのは厳しい』というのが個人的な印象です。以前、大阪の繁華街に位置する、周囲に夜遅くまで営業している飲食店やコンビニエンスストアが多数軒を並べるビジネスホテルに1週間滞在予定だったのですが、そのときは1週間持たずにチェックアウトしました。
というのも、私の場合は自宅も含めたプライベートスペースでは、デスクワークという時間がほとんどを占めるところ、ビジネスホテルの部屋というのは基本的にはワンルームであり、『寝る』というのを主目的でつくられており、長時間デスクワークをするという利用形態を想定してはつくられていません。また、愛用する私物が多く、睡眠や仕事などあらゆる行為を同一の空間で行うことが苦手な私のようなタイプには、特にビジネスホテルで暮らすことは向かないかもしれません。逆にいえば、夜寝る時間しか家に帰らず、私物も少なく、とにかく寝る場所さえ確保できればよいという人には意外に快適という人もいることでしょう。結論としては、個々人の生活スタイルや性格次第ということになります」
ではビジネスホテル側にとって長期滞在プランというのは、メリットがあるものなのだろうか、瀧澤氏はいう。
「コロナ禍でホテルの稼働率が低下したことを受け、ビジネスホテルに限らずシティホテルも少しでも客室を売るべく、こぞって長期滞在プランを積極的にPR、高級ホテルに格安で住めると大きな反響がありました。このようにさまざまな要因で客室が売れないときに一定の稼働を確保するという意味では、効果があります。
一方、現在は国内旅行者や訪日外国人旅行者の増加でホテル需要は高まっています。多くのホテルが需給に応じて価格が変動するダイナミックプライシングを導入している点からいえば、割安で定額、かつ長期で滞在されるよりは、より高い料金での予約流入のほうが経営的には好ましいということになります」
(文=Business Journal編集部、協力=瀧澤信秋/ホテル評論家)