英語が母語でない研究者の不利益を数値化…ネイティブ話者に比べ膨大な労力・時間

 スイスの国際経営開発研究所が昨年発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」によると、東アジアの国・地域では、韓国が8位、台湾が11位、中国が17位となっていたが、日本は前年から1つ順位を下げ29位となっている。たしかに韓国ではサムスンがスマホブランド「Galaxy」を擁し世界的に存在感を示しており、中国でもバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイなどの成長が著しい。

 人口で見ると日本が約1億2000万人なのに対し、韓国は約5000万人、中国は約14億人。人口の規模感としては日本は韓国に近いが、日本には1億人以上おり、国内向けのみでもビジネスは成立しやすい。一方、人口が日本の半分以下の韓国はグローバル市場を視野に入れないとビジネスが成立しにくいという側面はあるのかもしれない。

「学術界でも似たような傾向があるかもしれません。日本では科学の歴史も長く、日本語で活動できる体制が整っており、日本語で出版されている文献は非常にたくさんあります。さらに最新の研究内容も日本語に訳されていたりと、英語を習得していなくても、日本語だけで科学を学ぶことがそれなりにできる国だと感じています」(同)

AIツールの有効活用が打開策となる?

 天野氏は論文のなかで、個人や機関、学術誌や学会大会などが実行できる解決策も提示しており、適切なAIツールの利用を考えていくことが重要な解決策になっていくと述べている。

「AIの利用にはメリットとデメリットが当然あり、学術界全体の総意としてどう利用していくべきかという結論は、まだ出ていないというのが現状です。生成AIや機械翻訳も含めて、AIツールは英文の校正に有効に使うことができますが、ゼロから文章を書くこともできてしまいます。

 現在、世界のトップの学術誌のひとつである『サイエンス』は、完全にAIの利用を禁じています。我々は『サイエンス』にレスポンスレターを提出し、英語が母語でない研究者の言語の壁による負担も大きいので英文の校正にはAIツールも活用していくべきだと意見表明を行ったのですが、『サイエンス』誌側の結論は変わりませんでした。私の推測ではAIツール活用の利点・欠点を英語ネイティブの立場からしか検討しておらず、非英語圏の言語の壁の問題については理解されていないこととも関係しているのではないかと思います。このようにかなり慎重な姿勢を取っているケースもあるので、しっかりと線引きをしてAIツールを利用していき、学術界全体でも英語が母語でない研究者をサポートしていくべきだと考えています」(同)

(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio、協力=天野達也/クイーンズランド大学上席講師)