そのうえ都内で多数展開されている看板広告はドミナント性を有しており、競合他社の参入を防ぐ効果を発揮していると鈴木氏は話す。仮に八王子付近に限定して広告を30カ所だけ展開していた場合、競合も真似て同じような看板広告を設置するようになり、きぬた歯科の広告効果は半減どころか10分の1以下にまで落ち込んでしまっていた可能性があるという。顔看板を見た人がすぐにきぬた歯科を認識できなければ意味はなく、似たような広告が複数存在すると効果は薄まってしまう。確かに最近、きぬた歯科を真似てか院長の顔写真が載った看板広告をよく見かけるようになったが、きぬた歯科ほどのインパクトは感じられない。
前記の街録チャンネルでも羅田院長は、競合が参入する前に看板を手広く設置することを目指していたと話しており、当初は週1ペースで看板を設置していたそうだ。看板を展開し始めた2012年当時、他医院におけるインプラント治療の死亡事故が報道されたのをきっかけに売上が落ち込んでいたものの、きぬた歯科は1カ所でしか営業しておらず、ある程度の内部留保があったため看板を設置できたという。現在では年間約2億円もの費用を看板広告に費やしているが、15億円の売上がこれを賄っている。
最後に、他の医療機関が取るべき有効な広告手段について鈴木氏に聞いた。きぬた歯科の看板広告や高須クリニックのテレビCMのようなマス広告はそもそも資本が必要なため、ある程度の規模がある医療機関しか打つことができないという。広く潜在顧客を掘り起こす上ではマス広告もインターネット広告も有効ではあるものの、一般的な医療機関が1回や2回マス広告を打ったとしても中途半端になってしまい効果が得られない可能性が高い。やはり普通の医療機関にとってはインターネット広告が王道であると鈴木氏はいう。
以上のことから、きぬた歯科が看板広告で成功した要因は、
(1) 大規模なマス広告として機能したこと
(2) 突き抜けて目立つデザインであること
(3) 競合の参入を防いだこと
の以上3点にまとめられるだろう。現在では大きな収入が巨額の広告費を賄っているかたちであり、鈴木氏がいうように小規模な医院がこれを真似ることはできない。目立つ場所に看板を多数設置する方法は、きぬた歯科だからこそ可能な戦略といえる。
(文=山口伸/ライター、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)