2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の工事について、運営元である日本国際博覧会協会(万博協会)が政府に対し、建設業界への時間外労働の上限規制を適用しないよう要請していると報じられている。過労死弁護団全国連絡会議は3日、「労働者の生命・身体を危険にさらすことを許容することを意味する」として撤回を求める抗議声明を発表。東京オリンピックのメイン会場となった新国立競技場の工事では、現場監督の過労自殺や作業員の労災死亡事故が起きていることもあり、万博協会の行動が議論を呼んでいる。
大阪万博は再来年の2025年4月から半年間にわたって開催されるが、特に60か国が参加する予定のパビリオン(タイプA)の建設が遅延しており、間に合わない懸念が生じている。パビリオン(タイプA)は各国・地域が独自にデザイン・設計して建てるもので、事前に大阪市から仮設建築物許可を取得する必要があり、昨今の資材費高騰や建設業界の人手不足も重なり、現時点で許可の前段階の基本計画書を提出しているのは1カ国にとどまっている。
工事の遅れに業を煮やしているのが万博協会だ。建設業界では24年4月に働き方改革関連法に基づき時間外労働の上限規制が適用され、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満に制限されるが、業界全体が工事現場従事者の長時間労働を前提に回ってきたため、広い範囲で工事遅延などの発生や人手不足の深刻化が懸念されている。いわゆる「2024年問題」だが、万博協会は工事の遅れ解消を目的として、万博の工事にこの上限規制を適用しないよう政府に要請していると伝えられている。
上限規制には適用外とする特例規定が設けられているものの、「災害その他避けることのできない事由」に該当する場合とされており、加藤勝信厚生労働相が「一般的には単なる業務の繁忙では、認められない」との見解を示しているとおり、万博協会の要請の合理性は低い。
また、大阪・関西万博はテーマの一つに「労働環境の改善」を謳っており、調達コードとして「長時間労働の禁止 サプライヤー等は、調達物品等の製造・流通等において、違法な長時間労働(労働時間等に関する規定の適用除外となっている労働者については健康・福祉を害する長時間労働)をさせてはならない」と明記しており、今回の要請は万博の理念に反しているとの指摘もなされている。
万博協会の動きを受け、過労死弁護団全国連絡会議は今月3日、「大阪・関西万博への労働時間規制の適用除外を求めたことへの抗議声明」を発表。前出の新国立競技場建設での過労死事件を引き合いに出し、<新国立競技場のデザインが変更になる等によって工期がひっ迫し、超長時間労働を行わざるを得なくなることで生じたものであって、現在の大阪・関西万博と全く同様の構造>と指摘。次のように主張している。
<「労働力不足」を理由としてこの適用除外の延長を求めるということはすなわち、上限規制を超えたような時間外労働が発生することを許容し、労働者の生命・身体を危険にさらすことを許容することを意味する>
<今回のような国際的行事において、長時間過重労働を労働者に課すことは、これら国連の原則・目標にも明白に違反するものである。 仮に、博覧会協会が求めるような労働時間規制の適用除外を行わなければ開催できないイベントであるというならば、開催を取りやめるほかはない>
建設業界関係者はいう。
「大手ゼネコンは今、建設の需給がひっ迫して人手不足の状態であり、日本政府のみならず海外の国がからむ万博のような面倒くさい仕事はやりたくない。なのでパビリオンなんかでも、話が来てもいろいろとできない理由を並べたり、高い見積もり金額を提示して受けないようにしているのかもしれない。もし工事を引き受けて東京五輪のときのように社員の労災事件が起きれば、ゼネコン自身も世間からバッシングを受けるリスクもあり、万博の仕事なんて受ける旨味も理由もないというのが本音だろう」
当サイトは万博協会に見解を問い合わせ中であり、回答を入手次第、追記する。
(文=Business Journal編集部)