実験的に新ブランドを展開するハードルの低さ、かつ失敗した際にも山岡家という看板ブランドがあるおかげで、リスクヘッジもしやすくなっているということか。
店舗数が3桁に及ぶ大規模な飲食チェーンの場合、セントラルキッチンを採用して各店舗内では食材を温めるだけといったところも多いが、山岡家ではスープの仕込みなどをすべて店内で行っているのだ。セントラルキッチンや濃縮スープを使わず、手作りによるスープの仕込みや食材の店内調理を実施していることが山岡家のストロングポイントであり、ライバルとの差別化になっているといえるだろう。
「店内調理型の方式では、現場の売上を顧みて、仕込み量をコントロールできます。セントラルキッチンとなると、遠方にある工場に対して、数日後の売上を予測して発注する必要があるのですが、そうすればフードロスのコントロールも一苦労。しかし、店舗調理の方式であれば、比較的容易に予測し、フードロスを減らすことができます。
さらにセントラルキッチンでは製造したスープを工場から店舗まで運ぶ必要がありますが、配送と品質管理にかなりのコストがかかります。そのため、セントラルキッチン型のラーメンチェーンでは、配送コストを下げるためにスープを濃縮し、店舗のほうでは希釈して提供しているのですが、やはり山岡家のように店舗で仕込んだストレートのスープの味に比べると風味が損なわれがち。山岡家がかたくなに店内調理を貫くのは、フードロスももちろんですが、それ以上に味に対する並々ならぬこだわりがあるのでしょう」(同)
そんな山岡家、ロードサイドの郊外店舗は盛況なものの、都市部にはほとんど出店していない。それには都市部への出店が難しい事情があるのだという。
「山岡家は24時間営業を基本とし、店舗で豚骨などを煮込んで仕込みをします。そのためスープを仕込む際に臭いも発生するので、思わぬトラブルに発展するケースも容易に考えられます。ですから臭いがクレームにつながりかねない駅前やショッピングモールのフードコートなどへの出店は、とてもハードルが高いのです」(同)
ファンのなかには「あの豚骨臭さがたまらない」と語る人も多いだろうが、駅前や商業施設の中であの匂いを充満させるわけにはいかないのかもしれない。
「山岡家は上場企業ですが、都市部に出店できる業態にいくつかチャレンジすることで、ステークホルダーに対し、人口の多い都市部への戦略を忘れてはいないとアピールすることができるわけです。また山岡家の戦略は、セントラルキッチンを採用せずに店舗調理することで、人件費や光熱費の高騰が問題になったり、店舗ごとに味のブレがあったりといったデメリットがあるので、そうした面を含め現在は新ブランド展開の実験段階にあるという見方もできそうですね」(同)
コロナ禍で売上高が右肩上がりとなっていた丸千代山岡家。おごって守りに入ることなく、次のフェーズを見据えて新ブランドを実験するなど、チャレンジングな経営をしているようだ。
(取材・文=恵美須/A4studio、協力=山路力也/ラーメン評論家)