コスト削減の一環もあってか7月のメニュー改定に伴い、サイゼリヤは粉チーズの有料化(税込100円)を行った。筆者の印象では店内で粉チーズを使っている客は見かけず、有料化する意味はないのではと思ったのだが、この点についても稲田氏に聞いてみた。
まず、サイゼリヤの客層を大きく分けると(1)低価格ファミレスとして利用する層と、 (2)極めて個性的なイタリアンレストランとして利用する層に分かれるという。(1)は文字通り安さを求める客層であり、(2)は純粋にイタリアンを楽しむ層である。そして、これまで無料提供していた粉チーズは(2)を対象にしたサービスであるとのこと。特に(2)層のなかにはチーズを1本まるごと使い切るような消費者もいるようだ。グランモラビアチーズの価格が非常に高騰している現在、チーズ利用客の原価が100円単位で上昇している可能性もあり、有料化に踏み切ったと見られる。その他、客層を(1)に絞り込む意図もあるのではないかと稲田氏は言う。
最後に近年のサイゼリヤの方針について、料理人としての稲田氏の意見を聞いた。サイゼリヤは従来、(1)の客層向けにインフラ的な役割を全うしつつも、(2)向けにチェーンらしからぬ「尖った」イタリアンメニューを紹介するという二面性が魅力だったと稲田氏は語る。しかし近年では効率化に走っており、(2)向けの商品が減少し、ありきたりな商品を提供している傾向がみられる。経営判断としては正しいが、尖ったメニューを提供する余力や「遊び」がなくなっている。値上げをせず、効率重視に偏重するサイゼリヤの施策は日本の飲食文化を長い目で見たときに懸念するところがあると稲田氏は言う。
以上、サイゼリヤが値上げに踏み切らない理由を紐解いてみた。海外事業が国内事業の不調を補っており、国内では客足が遠のいてしまうことへの懸念から値上げをせずに、メニューの工夫や粉チーズの有料化などでなんとかコストを回収しようとしているようだ。効率化は企業判断としては正しいが、「遊び」がなくなってしまうとイタリアンにおける先導役としての役割を失うことだろう。長期的には飽きられてしまう危険性もある。
(文=永田理瑠/ライター、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)
●永田理瑠(ながた さとる)/ライター
経済、社会、街歩きの記事を執筆するライター。資料調査や専門家への取材に基づいた記事、街歩き系の記事を執筆する。趣味は散歩・カメラ。