サイゼリヤ「値上げなし」でも黒字達成の理由…客層を絞り込み、尖った魅力消失も

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サイゼリヤのHPより

 サイゼリヤが7月12日に発表した2023年8期第3四半期連結決算では、営業利益が前年比3.4倍の35.7億円となった。利益の大半は中国などのアジア事業によるものであり、国内事業は赤字のようだ。にもかかわらず、社長は依然として国内では値上げをしないと主張している。飲食チェーン各社が値上げに踏み切るなか、サイゼリヤが値上げをしない理由はどこにあるのだろうか。今回は南インド料理専門店「エリックサウス」の総料理長を務め、作家として飲食チェーンの戦略に関する本も執筆している稲田俊輔氏に話を聞き、サイゼリヤの方針について紐解いてみた。

コロナ禍では国内事業の赤字が続いた

 まずは近年における株式会社サイゼリヤの業績推移をみてみよう。決算資料によると19年8月期から22年8月期の業績は次の通りだ。

売上高:1,565億円→1,268億円→1,265億円→1,443億円
営業利益:96.0億円→▲38.2億円→▲22.6億円→4.2億円
セグメント利益(日本):51.2億円→▲56.2億円→▲72.1億円→21.0億円
セグメント利益(アジア):43.8億円→17.6億円→44.3億円→22.3億円

 サイゼリヤは国内外で直営主義を貫いているため、コロナ禍では客足の減少が売上高の減少に直結した形だ。営業利益は国内事業、そして中国をメインとするアジア事業の両方で悪化しているが、アジア事業は黒字を脱している一方、日本国内では大幅な赤字が続いた。いわば海外事業が国内事業の損失を補填しているような形である。国内事業の赤字は客数減少のほか原材料費の高騰も要因の一つだ。

なぜサイゼリヤだけが値上げしないのか?

 コロナ禍ではウクライナ侵攻の影響も相まって原材料費やエネルギー価格の高騰が続き、この間、飲食チェーン各社は段階的に100円、200円と値上げに踏み切った。しかしサイゼリヤは20年7月に国内店で価格表記を○99円単位から50円単位にする「1円値上げ」を実施したものの、他の飲食チェーンが実施したような大幅な値上げを行っていない。7月12日に発表された23年8期第3四半期決算においてもサイゼリヤの社長は値上げしない旨を主張している。国内事業が不振であるにもかかわらず、なぜサイゼリヤだけが値上げをしないのだろうか。

 稲田氏によると、サイゼリヤの売りはやはり低価格な点にあるという。たしかに国内では消費者が飲食店の値上げを渋々容認するようになったとはいえ、低価格を売りにしているのであれば、サイゼリヤの価格弾力性は飲食業よりも小売業のそれに近いのではないかと稲田氏は推測する。価格弾性力が大きければ、わずかな値上げでも大きく需要は減少してしまう。実際、小売業においては値上げに伴い販売数が減っている傾向が見られているため、仮にサイゼリヤが大幅な値上げをすると客足が遠のいてしまう可能性がある。

コスト削減の企業努力

 大幅な値上げを行っていないものの22年8月期は国内事業の営業利益黒字化を達成した。23年8期第3四半期においては原材料費のさらなる上昇が続くなか、国内事業の営業損失は15.8億円に留めており、全社では黒字となっている。値上げをせずともコスト削減によって何とか黒字を出そうとする企業努力が垣間見える。製造直販業(SPA)としてすでに効率化を果たしているサイゼリヤにおいて、どのようにしてコストを下げているのだろうか。

 メニューにおいては、使用食材や盛り付けを簡素化する、あるいは比較的高利益な新商品を投入するといった手法をとっている可能性があると稲田氏はいう。他の飲食チェーンでは簡素化や容量を小さくするステルス値上げが消費者の不満を買う例が見られるが、サイゼリヤではそれを上手く見せることができているようだ。例えば「フレッシュチーズとトマトのサラダ」という商品名で提供されていたカプレーゼ、現在ではトマトがなくなりチーズだけが乗った「バッファローモッツァレラ」として提供されているが、シンプルさがむしろ好印象を与えているという。