新宿高島屋、売上が過去最高並みに急増の理由…小田急・京王から「外商」奪取か

鉄道会社がターミナル駅で百貨店を運営する理由

 こうした方向性が業界の激変につながっているようだ。好調な百貨店と消えていく百貨店にはひとつの法則がある。百貨店は大きく分けて、小田急百貨店や京王百貨店など私鉄グループの「電鉄系百貨店」と、呉服店をルーツとした高島屋や伊勢丹のような「呉服店系百貨店」があるが、先述したように前者は旧電鉄系も含めて次々と閉店や規模縮小となり、後者は絶好調となっているのだ。その理由について、中井氏はこのように指摘する。

「おおざっぱな言い方をすると『本業か本業じゃないか』ということが大きな理由でしょう。鉄道会社がターミナル駅で百貨店を運営する最大の理由は、商業サービスを駅の利用者に届けることで沿線価値を高めるためです。しかし、かつての百貨店は休日に家族で出かけ、買い物をしたり、子どもが屋上遊園地で遊んだりと庶民が楽しめる場所でしたが、現在は高級なイメージで敷居が高くなり、家族連れは手ごろな商品やサービスがそろった郊外のショッピングセンターなどに流れています。ファミリー層から支持されなくなった百貨店は沿線価値を高めるものではなくなりますから、鉄道会社としては無理に続けていく必要がない。巨大な鉄道グループにしてみれば、百貨店がなくなっても大きな問題はありませんし、それより大衆向けの商業施設に変えたほうがいいわけです。一方、呉服店系の伊勢丹や高島屋は百貨店が本業ですから、売上を出せなければ会社の存続にかかわる。ですから、富裕層の顧客獲得やリアル店舗とECサイトのシームレス化などを進め、必死に売上を伸ばそうとしてきた。そうした戦略の違いが、呉服店系百貨店の大勝ちと、電鉄系百貨店の総負けともいえる現状につながっていると考えられます」(同)

地方の百貨店は厳しい状況

 最新の百貨店業界の構図について、中井氏はこのように語った。

「新宿高島屋は上がり続けてきた売上が2023年6月度の営業報告で前年比マイナスに転じるなど伸びがひと段落してきましたが、伊勢丹新宿本店は今年も変わらずに売上が大きく伸び続けており、決算で驚異的な数字を叩き出しそうです。業界トップの座はより強固なものになるでしょう。大阪の阪急本店なども相変わらず強く、名古屋なども含めて大都市部の百貨店はコロナ前の売上を上回っているところが目立ちます。そうした状況を見ると、大手百貨店は富裕層をターゲットにすることなどで今後も生き残ることができそうです。一方、島根県の一畑百貨店が来年1月に閉店すると発表し、全国で3つ目の『デパートなし県』が生まれることが確定するなど、地方の百貨店は厳しい状況が続いています。大都市部の百貨店のECサイトが充実すれば、地方の百貨店は地元の富裕層の顧客を奪われる可能性もあり、そうなれば地方百貨店の減少は加速するでしょう。都心部での電鉄系百貨店の衰退などもあり、業界は大きな過渡期を迎えているといえます」(同)

 大都市と地方、呉服店系百貨店と電鉄系百貨店で二極化が進んでいる状況。大都市を中心に百貨店が生き残っていくのは間違いないだろうが、その存在意義やビジネススタイルは大きく変化していくことになりそうだ。

(文=佐藤勇馬/協力=中井彰人/流通アナリスト)