「やはり、外資系や大手はアルバイト・パートであっても昇給システムなどの待遇面がしっかりしている傾向は強いです。たとえば、マクドナルドはスキルの習熟度によって従業員がランク分けされ、それに応じて時給が上がっていき、制服や帽子もランクで変わるのでモチベーションが高まりやすい。外資系や大手が正社員登用に積極的なのも事実で、イオン系スーパーのマックスバリュ東北は私が取材に行った時にパート出身の女性店長がいました。ブックオフでは、パートから正社員、店長、役員、そしてついに社長となった橋本真由美さんの例もあります。ただ、誰もが大手で昇進や昇給を目指してガンガン働きたいというわけではなく、こぢんまりとした居心地のいい地元の中小チェーンや個人店で気楽に働きたいという人もいるので、それぞれ違った需要があるという見方もできます」(同)
コストコなどの地方進出は、構図としては「大資本の進出によって地元企業が人材を奪われて衰退するかもしれない」という形になりそうだが、ネット上では
「人手不足は困るけど時給は上げたくないなんてワガママ言ってたら、コストコに人材持ってかれて当たり前」
「適正な賃金が払えない会社は払えるように企業努力すべきで、それができないなら淘汰されたほうがいい」
「地方の賃金水準は時代に合ってないから、コストコが外圧になって地方経済を変えてほしい」
といった好意的な声が相次いでいる。
その一方で
「地域に密着した中小企業が人手不足で消えてしまうのでは」
「賃金相場が崩れて地方経済が混乱しそう」
などと危惧する人もいるが、全体的にはコストコの地方進出を歓迎する意見が多いようだ。
かつて、イオンが全国各地に進出して地元の商店街を衰退させたことに批判が高まったことがあったが、コストコの進出については歓迎の声が目立つ。「外圧」でしか変われないといわれる日本において、外資系のコストコが地方の低い時給相場や閉塞感を打ち破ってくれるかもしれないという期待があるのだろう。
「まず前提として、もともと小売業や飲食業は賃金水準が低く、さらに正社員を少なくしてパートやアルバイトの比率をどんどん上げ、人件費を抑えることで成り立ってきたという歴史があります。ですから現状のままだと、地方企業が人手不足になっても簡単に時給を上げられないという事情は理解できなくはない。一方、コストコは倉庫型店舗で陳列の手間などが少ないので、店の大きさと比べると従業員がそれほど多くはなく、人件費がさほどかさみません。さらに、商品をメーカー直で仕入れているので低価格で販売しても利益が確保できますし、会員制なので年会費(税込4840円)の収入も大きい。そうした儲かるビジネスモデルを構築しているので、パートやアルバイトを高待遇で雇えるんです。儲かるビジネスモデルがあるから従業員の待遇に還元できるという部分は、ユニクロやイオンなども同じ構図です。そうした国内大手企業や外資系企業の地方進出が、低い賃金相場を前提にした小売業や飲食業のシステムをドラスティックに変えるきっかけになるかもしれないという期待はできます」(同)
今後の小売業・飲食業のパート・アルバイト雇用について、西川氏はこのように見解を語った。
「少子化で労働力が減少していくのは間違いありませんから、最低賃金をもっと上げていかないといけませんし、働き手がしっかり生活できるだけの時給を払えない企業は淘汰されても仕方ない部分はあります。ひとつのやり方としては、人手不足を嘆いていても仕方ないので、AIの活用やDX化によって無人店舗化するなど、人をできるだけ使わないようにするという手段がありますが、これは相応の投資が必要なので地方の中小企業が実施するのは容易ではありません。ただ、弱肉強食で労働力を確保できずに地方企業が淘汰されたら、全国すべて外資系や大手チェーンばかりになってしまいますから、それでは多様性がなくてつまらないでしょう。その地域ならではの中小チェーンや味のある個人店が、地方に進出してきた外資系や大手企業とどうやって共存共栄を図っていくのか、これは非常に難しい今後の大きな課題といえます」(同)
地方の小売業や飲食業は時給を上げることができずに人手不足で淘汰されていくのか、それとも「外圧」をきっかけにした変革によって生き残りを目指すのだろうか。
(文=佐藤勇馬、協力=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)