そこでタクシー側の三井住友海上保険の担当者から、またしても驚きの提案を受けることになったんです。
「損保ジャパンさんから補償を引き継ぐことになったので、よろしくお願いします」
今回の事故ではほとんど損害は受けていません。どうして三井住友が前の事故の補償も請け負うことになるのか尋ねたところ、『新しい事故が起こった際が、保険業界のルールとしてそうなります』との説明でした。
納得がいかなかったので、何度もお願いし、結局、損保ジャパンに引き続き事故の補償を求めていくことになりました。
自分自身でカメラを回せなかったので、代わりのカメラマンを雇ったり、事故で没になってしまった作品などに関する見積もりを取引先に出してもらいました。おおよそ500万円くらいになりました。これらの損害に関して、休業補償を求めようとしたところ、「雇用者なら出せますが、フリーランスや自営業者には出せません」と断られました。理由を聞くと「補償できないルールになっています」との回答でした。
もはやどうしようもなくなり、損害賠償というかたちで補償を求めることになりました。そうしたら損保の担当者は「加害者と相談する」と話し、その2~3週後、同社の顧問弁護士から「私を訴える」と連絡がきたのです。まるで同社が加害者をけしかけて、訴えたように見えます。私も知人の弁護士を立てることになりました。
その後、右半身のマヒがひどくなり、後遺障害が出始めていることを損保に訴えたのですが、損保は自社指定病院での診断を要請してきました。その結果、後遺障害はないと診断されました。
2015年まで弁護士を通じて話し合いが行われました。その間、約200万円の費用がかかりました。最終的に裁判所から、「損保ジャパンが和解案を提示してきた」と連絡があり、悩んだ末にこれを受け入れました。和解案は損保ジャパンが損害賠償として250万円を支払う。そして、後遺症などが出ても損保ジャパンは一切関係ないというものでした。和解案を受けるということは、民事訴訟では一定の勝利と見られます。今から考えれば、あれでよかったのかと考えさせられます。
ちゃんと法廷で戦って、判例として結果を残すべきだったのかもしれません。事故から11年後の2018年、ずっと不調だった右足の神経が壊死してしまい、切断しました。今は義足で生活しています。あとに弁護士に聞いた話ですが、保険会社としては、どのようなかたちになるにせよ、この件が判例として残ることを強く恐れていたということです。
【以上、吉田氏の証言】
交通事故時の損害保険会社の対応は、どのようなあり方が正しいのか。法律的な見解を山岸純法律事務所の山岸純弁護士に聞いた。
交通事故の被害者側弁護活動においては、大抵の場合、(加害者)保険会社と示談交渉をすることになります。ここで、一概には言えませんが、確かに損保ジャパンは、比較的、支払が“渋い”というイメージがあります。
もちろん、他の損保会社と同様に損保ジャパンの担当者が過去の同様事例を勉強・研究し、不当な請求は確実に排除し必要な範囲において保険金を支払うという損保会社においてきわめてスタンダードなスタンスをとっているのであれば、なんの非難も受けようがありません。
しかし、 交通事故の被害者側弁護活動を長年やっていると、損保会社によって「気前がいい」「手厚く支払ってくれやすい」「支払いが“渋井”」「難くせつけて、結局支払わない」などといった態度の違いはあり、 交通事故の被害者側弁護活動に 数多く携わる弁護士達の意見としては、損保ジャパンは後のほうの態度をとる場合が多いとされています。