今、国内テレビ市場のシェア1位はTVS REGZA(旧・東芝映像ソリューション)が売り出す「REGZA(レグザ)」だ。REGZAといえば日本発の人気テレビブランドだが、現在TVS REGZAの親会社になっているのは、中国の電機メーカーであるハイセンスグループ。REGZAは東芝の商品ではなくハイセンスの商品ということである。調査会社GfKジャパンが販売台数実績から推計した2022年の国内薄型テレビ市場規模データによれば、ハイセンスはシェア33%でトップになっている。
薄型テレビといえば、かつては日本メーカーが世界市場で高いシェアを誇っていたが、いまや国内市場ですら海外勢に負けるほど競争力が落ちてしまっている。そこで今回はIT・家電ジャーナリストの安蔵靖志氏に、なぜ中国企業であるハイセンスが日本のテレビ市場を席巻しているのかを解説してもらった。
まず、ハイセンスというのはどういった出自の企業なのか。
「ハイセンスは1969年に創業された中国の電機メーカーです。創業初期からテレビの製造に力を入れており、1980年代中頃には中国内のテレビメーカーでトップクラスの地位に上り詰めます。同時にテレビ以外の冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった白物家電のジャンルにも進出し、日本でいうところのパナソニックや三菱電機のような総合家電メーカーとして力をつけていきました。そして、2010年には日本法人であるハイセンスジャパンを設立。十八番だったテレビを武器に日本市場に登場するのですが、日本では国産メーカーへの信頼が厚かったこともあり、そこまでテレビでは勢力を拡大できず、むしろ冷蔵庫や洗濯機などの白物家電が受けていた印象がありますね」(安蔵氏)
そんなハイセンスだが、2018年に転機が訪れた。
「この年にハイセンスは日本テレビメーカーの雄であった東芝映像ソリューション(現・TVS REGZA)の株式95%を取得し、子会社化しました。2006年に東芝グループが社運をかけた原子力発電事業の一環で、アメリカのウェスティングハウスを買収し、アメリカでの原子力発電事業進出の足がかりにしようとしたものの、世界的な脱原発傾向に梯子を外されたかたちになり、膨大な負債が生じました。苦境に立たされた東芝は自社の屋台骨であった事業を次々と売り払う事態に陥り、そのなかでテレビ分野の中心であった東芝映像ソリューションをハイセンスに売却したわけです。これによりハイセンスは高性能なテレビ開発技術を獲得しました」(同)
現在のハイセンスのテレビは液晶、有機ELともに画質が劇的に改善され、さらにリーズナブルさも兼ね備えているという。32インチの液晶テレビを例に見ると、競合のパナソニックが5万7000円ほどで販売しているのに対し、ハイセンスは4万4000円ほど。コスパのよさが際立っている。
東芝映像ソリューション買収後のハイセンスによる経営は巧妙だった。
「ハイセンスが、その看板自体に信頼と集客力のあった『REGZA』の名前を残したことは英断でした。基本的に開発スタッフなども東芝時代と大きく変えていません。ブランドを塗り替えるようなことをしなかったのは、もともとREGZAが持っていた知名度と顧客層をそのまま得るためだったのでしょう。また、ハイセンスが持っていたグローバル規模の調達網を使い高品質な原材料を安く手に入れられるので、開発陣も充実した開発環境で製品開発に注力できるメリットもあり、結果的にはハイセンスと東芝映像ソリューション時代から残る社員の双方にとってWin-Winだったのではないでしょうか」(同)