PSMCは、日本の半導体産業との関係が深い。2006年、PSMCはエルピーダメモリと「レックスチップ」を設立した。合弁事業を通してPSMCは、かつて世界トップシェア誇った日本のDRAMの製造技術を吸収し、半導体部材や製造装置メーカーとの関係も強化した。それによってPSMCはメモリ半導体メーカーから、受託製造業への事業転換を果たした。主に台湾で同社は事業運営体制を強化した。現在、回路線幅28ナノメートル(ナノは10億分の1)以上、汎用型のラインで製造される車載用の半導体、メモリ半導体の受託製造の分野で世界第6位(SBI公表資料による)のシェアを獲得している。
ただ、ここにきてPSMCは、海外進出を強化せざるを得なくなった。中国は台湾への影響力を強めようとしているように見える。日本や米国などは、あらゆる分野で利用が増える半導体の自国生産能力を強化するために補助金などの産業政策を強化した。また、今のところ、日本の自動車メーカーは世界トップの競争力を発揮している。地政学リスクに対応しつつ、より多くの需要獲得のためにPSMCにとって対日投資を実行する必然性は高まった。特に、解消されつつはあるものの、依然として車載用半導体の不足感は残っている。世界全体でのEVシフトなどを背景に、一台あたりに搭載される半導体の点数も増加する。デジタル化を背景に家電などに搭載される半導体点数も増える。
SBIは需要の増加期待が高まる分野の企業との関係を強化し、資金需要の増加につなげたい。PSMCの投資が実行されれば、資金調達面でSBIが果たす役割は増え、業績拡大の可能性は高まる。資本・業務資本提携を結んだ地方銀行の融資機会なども増加すると予想される。
今後、SBIは半導体、人工知能(AI)など成長期待の高い分野の企業との協業を増やすだろう。そうすることによって同社は、生産・開発拠点の建設に必要な土地の取得、建屋の建設、物流体制の整備などに必要な資金調達をサポートし、利鞘の拡大を目指すと予想される。
期待されるのは、半導体などの企業が拠点を置く場所を中心に、周辺地域の需要が高まることだ。熊本県菊陽町では、TSMC、ソニー、デンソーによる工場建設により土地需要が盛り上がった。2023年1月1日時点で、菊陽町光の森3丁目の県道住吉熊本線の路線価は前年から19.0%上昇(全国2位)だった。
工場建設によって人材の獲得競争は激化し、給料の増加期待は高まる。人の往来も増え、飲食、宿泊、交通などのサービス業の収益機会も増える。製造業、非製造業の両分野で産業が集積し、雇用、所得の機会は増加する。地方の経済は活性化し(地方創生)、資金需要は増加する。
そうした展開を狙ってSBIは、PSMC以外にも非金融分野の企業と資本・業務提携を増やした。2022年9月、飲食ビジネスなどを行うバルニバービ(本社、大阪府)との提携が発表された。2023年5月、島根銀行とバルニバービは地方創生事業の開始を発表した。金融ビジネス面でIT先端技術を積極活用してコストを削減し、事業運営の効率性を高める。一方、金融以外の領域では、成長期待の高い企業との関係、協業体制を強化する。その実現によって、工場や店舗建設の資金を融通する。雇用などの機会を生み出し地方経済の活力を高め、より多くの資金需要を生み出す。現時点でのSBIの成長戦略といえる。
ただ、成長戦略がどういった成果をもたらすか、先行きは楽観できない。世界経済、金融市場の先行き不透明感は上昇している。米欧での金融引き締め長期化によって世界的に株価が下落すれば、企業や金融機関のリスクテイクは低下し、投融資は進めづらくなるかもしれない。
日本の金融政策の影響も大きい。日銀は慎重に時間をかけて長期金利の引き上げを目指すだろう。一方、マイナス金利政策の解除は容易ではない。低金利環境は長期化し、SBIと提携する金融機関の収益力が低下する恐れも否定できない。そうしたリスクに対応し、収益力を拡充できるか否か、SBIの実行力に注目が集まるだろう。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)