事業者に支払われる買い取り金額は、再生可能エネルギー発電促進賦課金という名目で毎月の私たちの電気代から徴収されています。導入当初の42円(税込み)という買取価格は高すぎるとの指摘がありました。当時同じ制度を導入していた欧州諸国の約2倍の価格だったのです。太陽光発電は火力・原子力発電などと比べると天候次第で、陽が照っている間しか発電できません。天候の影響で発電量が変動する不安定なものです。そのため安定供給のための設備も必要になり、余分な費用もかかります。つまり、実際に掛かる費用は買取額よりも高くなるのです」(同)
今こうした太陽光発電ビジネスに参入するのは、あまりオイシクないということか。
「そのとおりです。制度が導入された当初、買取価格のバブル期とも呼べる時期に事業を開始した事業者は別ですが、今からの参入では、設備の価格は下落していますが、買取価格も下がっているので、かつてほどの収益は見込めないです。あとは、もう適した土地があまりないという点もネックです。太陽光発電は日当たりのいい、開けた価格の安い土地が必要なのですが、ブームの時代に多くの事業者が占有したことで、今では安く準備ができて、効率よく発電できる土地がほとんどなくなってしまっています」(同)
近年は太陽光発電設備と土地のセットが、中古で売りに出されている。初期投資費用1000万円くらいのセットでは約650平方メートルの区画が買え、利回りとしてはだいたい10%前後、年間で約100万円の収入を得ることができることもあるという。だが、そうした中古の増加は売電価格が減少しているため手放す人が増えている、ということなのだろうか。
「いいえ。このビジネスは、イニシャルコストは高いですがランニングコストがほとんどかからず、設備を整えてしまえば特段労力をかけずに収入が得られる点に魅力があるので、安易に手放す人は少ない気がします。中古が増えているのは、すぐにお金が欲しい人がいるからではないでしょうか。得られる電力と支払われる額が大きく変動しないため、儲けは長期的に出る仕組みです。そのためすぐに利益を出したい人が、設備投資をして中古としてすぐ売りに出すのは十分考えられます」(同)
しかし、中古セット購入には大きなリスクもはらんでいるという。
「太陽光パネルの使用年数で、実際に得られる収益が変わるという点です。一般的に太陽光パネルの耐用年数は20年程度といわれていますが、パネルの効率は徐々に低下します。10年以上使用したパネルでは発電効率が落ちている可能性もありますし、下手したら発電量が大きく減り、想定した収益が得られないこともありえます。ただ、FIT制度導入当初の買取価格が42円の時代に事業を始めていれば、耐用年数の残りの期間が短くても利益が出る場合はあります。いずれにせよ、耐用年数の経過や発電効率、発電量のチェックは必須ですね」(同)
太陽光発電ビジネスを手掛ける上でのメリットとデメリットを改めて整理しておこう。
「メリットは二酸化炭素が出ないクリーンなエネルギーということですね。事業者目線でいえば、設置してしまえば、基本的にあまり維持費用がかからず、放置しているだけで儲かるという手軽さです。ですが大きなメリットは正直なところそれくらいに思えます。買取価格は低下しており、これから始めるとビジネスとしてのうま味はあまりないでしょう。銀行預金よりはリターンが高いのは確かですが、預金と違ってリスクはゼロではありません。例えば、最近は設備の盗難事件も報道されています。
ほかにも、太陽光パネルは有害物質を含んでいるので、万が一災害に見舞われた場合、これらの有害物質が流出したり、水害で感電する危険性もあります。それに、こうした有害物質の処理を効率的に行い、撤去費用を上回る利益額を得るリサイクル方法が現時点では開発されていません。そのため、事業者は処理費用を積み立てる必要がありますが、耐用年数が過ぎた太陽光パネルを放置する事業者が今後出てくることも懸念されています」(同)
今から参入するにはメリットは少なく、リスクがあるようだ。
(文=A4studio、協力=山本隆三/国際環境経済研究所所長・常葉大学名誉教授)