一方、大庄はコロナ禍の影響のみならず、もともとの大庄の企業体質ならではの理由で業績を落としてしまったようだ。
「大庄は魚介類をメインメニューとするお店として知られています。しかしコロナ禍で多くの飲食店が休業に追い込まれた影響により、スーパーマーケットやネット上のオークションサイトに、飲食店に流通するような上質な魚介類、お酒が並ぶようになり、消費者のマインドとしては、わざわざお店に行ってまで食べたくなるような魅力的に映るメニューがなくなってしまったんです。大庄グループの店舗は一つひとつのメニューも安くはない価格設定であるため、ほかのお店に客が流れてしまっているのでしょう。
また大庄では、料理人の育成制度が整っており、店舗でも板前が調理を行っている本格さをウリにしてブランドイメージを作ってきました。料理人の独立支援も充実しており、さまざまなブランドを出店しています。ただ、現在の飲食業界は調理工程や動線をマニュアル化したり、セントラルキッチンにして調理を簡潔化したりするなどして、効率化することが主流なので、大庄のやり方ではコストカットが非常に難しいのです」(同)
大庄はリピーターが多く、それが仇となり業績が下がっている面もあるという。
「『板前が注文を受け、一つひとつ丁寧に調理する』という昔ながらの営業スタイルは、客からしてみれば安心感が強く、固定客増加につながるのですが、現在はチェーンの居酒屋にそこまでのクオリティを求める客自体が少ない。なんとかして固定客を掴んでも店舗の近隣に住む客ばかりで、新規の客をなかなか獲得できない構造になっていたのです。このような経営スタイルでコロナ禍に入ってしまったのが運の尽きでした。常連さんに依存するビジネスモデルであるため、他社以上に客数減少の煽りを受けてしまったのだと考えられます」(同)
大庄は19年9月1日から22年8月31日まで224店も店舗閉鎖を行う結果に。固定客が離れた途端、急激な店舗数激減に苦しめられることとなった。
コロナ禍により命運がわかれたワタミと大庄。しかし両社の近年の業績を見ると、コロナ前から徐々に右肩下がりだったことがわかる。
ワタミは14年3月期の売上高1631億5500万円を経て、18年3月期には964億5800万円と1000億円を切る結果に。23年3月期の売上高は直近10年でワースト3の成績だ。対して大庄は、08年8月期の896億5600万円からずっと売上高は減少傾向にあり、22年8月期の売上高は直近10年のワースト2位という結果になっている。コロナ禍は関係なく、業績が慢性的に下降気味であったわけだ。今後、ワタミと大庄は業績を伸ばすためにはどのような経営方針を取るべきなのだろうか。
「ワタミは、焼肉や寿司といった業態にシフトしていますが、決してブルーオーシャンといえる市場ではないので競争は苛烈になるのが必然。そこでアピールしていくべきなのが、同社が取り組んでいる『ワタミファーム』という自社農場の存在です。将来的にはワタミファームで生産した農産物を使用したメニューをウリにして、客に安心・安全を認知してもらえるかが肝要になると考えています。これまでのワタミが持たれていた『安かろう悪かろう』といったブランドイメージを変革していくうえでも、早急に取り組むべき課題でしょう。
そして大庄は既存の固定客に配慮しつつ、新規客層を引き込めるかがカギとなります。ワタミとは違い大庄は、しっかりとした固定客を掴んでいる分、劇的に客足が落ちることがないという強みはあるものの、やはり新規の客を取り込まないとじりじりと衰退していくことは必至。若者を中心に酒離れが進んでおり、伝統的な酒、魚のメニューにこだわらない業態を進めていくべきではないでしょうか。幸い大庄は独立のバックアップが大きいので、既存店舗とは違った業態を出すといったことも、経営陣の判断があればすぐに取り組めるはず。既存の店舗との客層の棲み分けも図れるので、固定客を逃がすこともないでしょう」(同)
いまから5年後や10年後に笑っているのはどちらか。もしくは、両社とも笑っているか、両社とも泣いているという近未来もあるだろう。両社の今後の動向に注目だ。
(取材・文=A4studio、協力=重盛高雄/フードアナリスト)